表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1話:A Cat on the Edge.

 西暦時代が終わりを告げて幾星霜、かつて地球と呼ばれていたという中央星系第3惑星から移住が始まって数万年。今、私は宇宙船ビッグシスターに揺られ、中央星系より150光年離れた新たな星系に一人旅立つことになった。


 私がその任を担うことになったのは、自ら望んだことであったが、ある意味では必然であったと思う。

 というのも、まず私が通称エルフ、新人類ホモ・アストロだからだ。ホモ・アストロはホモ・サピエンスと比べて宇宙環境への適応力が極めて高く、微小な加速度を感知でき、大きな加速度への耐性も持つ。耐G装備を用いれば30G程度では意識を失うこともない。また、おおよそ病気を克服した現代において、代謝におけるテロメアの減少がないことも相まって外的要因以外で死ぬことも少ない。精神面においてもメタ認知に優れ、孤独やパニックにも強い。ホモ・アストロがエルフと呼ばれるのは三半規管の発達に伴い細長い外耳を持つためだ。

 次に私が無重力格闘術、ゼロGカラテの達人だからだ。自分で達人と言うのは謙虚さが欠けるように思えるが、星系大会で連覇し敵無しとなった私の肉体は15歳の頃から成長が止まっていてもなお、大会ではせいぜい6割程度の実力しか発揮していない。そんな私が謙遜するのは皆にとっても嫌味だから堂々とそう言っている。西暦時代の武芸者は山籠りをして鍛えていたように私は星籠りするというわけだ。

 そして私にとっての目的だが、この開発が終わると私には大きな権限が与えられる。その権限を使って道場を開くつもりなのだ。


「ネコちゃん、そろそろ減速を開始するわよ。座って。」


 宇宙船のAIが私に話しかけた。

 ネコとは私のこと、ゼロGカラテの流派は動物の種類をつけることが慣習になっており、そこで私は自分の流派をネコ流として立ち上げたのだ。そして、そのネコの流派の主である私はマスターキャットと呼ばれることになる。まあ、まだ道場も開いておらず私のことをそう呼ぶ者はまだいないのだが。

 ただいまの速度は0.03C (光速の3%)。ここから約半日かけて減速する。その加速度は約20G。


「ネコちゃん、本当にいいの?」


「問題ない。」


「ネコちゃんがそう言うならやるわよ。無理そうなら減速を緩めるからね。」


 そう言ってビッグシスターは減速を開始する。座れと言われたが立っている。減速Gがゆっくりと強まっていく。私は進行方向に吸い寄せられる。そしてその加速度が0.5Gを超えた頃に進行方向の壁に立ち、今まで足の下にあった地面と水平になる。そこから1G、2G・・・と減速Gが強まっていく。15Gを超えた頃から立っているのもやっとだ。そして20Gを迎える。

 5分おきぐらいで正立と倒立を繰り返す。同じ姿勢でいると血液が偏ってダウンしてしまうためだ。一応、加圧服を着ていれば私たちエルフであればこの程度のGであれば死にはしない。

 何時間も20Gもの加速度を体験することはまずできない。目的の開拓惑星に着いてしまえばこういったトレーニングもしばらくできなくなる。このタイミングでしっかりと鍛えておかないと。


 そうして、しっかりと約半日の減速中、トレーニングを実施することができた。

 そして一息ついた頃に目的地の惑星に到着した。

 すでに無人の機械が働いていて、私の生活できるドームもすでにできていた。まだ狭いドームだが日に日に大きくなる予定だ。


 開発惑星での私の仕事は一応は現場監督ということになっているが、実のところ実務は特にない。機械同士で解決できないトラブルにいくらか協力するといったことが役割の中心だが、そんなトラブルが生じても機械の素人である私にはどうしようもない。

 なので、私はトレーニングに明け暮れることになる。と思っていたのだが、意外と機械だけでは融通が利かないこともあるようで朝から晩まで働きづくめだ。ビッグシスターの指示のもと土木工事のお手本となり、機械たちにその様子を学習させる。ビッグシスター曰く、機械に直接プログラミングしてあれこれさせるより、その方が効率がいいらしい。

 まあ、私にとってもこうした土木作業はちょうどいいトレーニングにもなる。やはり筋肉は実際に使ってこそ鍛えられる。


 食事事情は乏しい。時折中央星系から物資が送られてくるが、それを食べつくしてしまうと主に食べるのは藻だ。乾燥させて水で練って飲む。まずい。

 食道をバイパスして胃に直接食べ物を流す胃ろう化手術を行うという手もあり、推奨されていたが、その手術を行うと胃の縮小化もセットで行われてしまい戻すのに難儀する。この開発事業が終わった後に経口摂取に戻れないとそれはそれで人生の楽しみが失われるので数百年の食生活は我慢することにした。我慢は得意だからだ。とはいえ、やはりまずい食事は億劫だ。かと言って食べないと満足に働けない。いつしかうまいとかまずいとか感じなくなった。


 仕事の甲斐もあって拠点がある程度大きくなり余暇も増えてきた。機械たちも自律して工事が進められるようになってきたのでその仕事は加速している。私がこの星に入植して1000年も経つ頃には主星を覆う構造物、ダイソン球も完成した。これにより、超光速船ミルキーウェイエクスプレスの運行が可能になった。

 詳しい仕組みは良く知らないが、2拠点間のある点に超高出力のレーザーをうまい具合に同期させて当てることで空間のひずみを作り異なる3次元空間上の2点を強制的に接続する技術らしい。そのひずみをワームホールと言い、数マイクロ秒だけできるとか。その数マイクロ秒のワームホールに向かって宇宙船を飛ばすそうだ。


 ミルキーウェイエクスプレスの完成に伴い、人口が増加。私以外の入植者が続々とやってきた。続々とといったが、ほかの星系の人口からしたらとても少ない。こんな何もない辺境の辺境にやってくるのは酔狂な人たちばかり。とはいえ、住めば都。都会の喧騒に疲れた人たちが癒しを求めてやってくるのもわからないでもない。かつて私も中央星系の大都会で疲弊したものだから。

 人が増えるに伴い、食事の環境も改善し、人らしい食べ物が食べられるようになったのは幸いだ。

 私の道場も開業し、辺境星系の数少ない娯楽として多くの門下生を受け入れることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ