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S市の海沿いにある埠頭の近くにある、使われていない廃倉庫に気味の悪い遺体が発見された。
その遺体は、人の立ち寄ることのない廃れた砂ぼこり臭い倉庫にあったせいか、発見が遅れ、凄まじい死臭を放ちながら数日放置されていた。
廃倉庫の小さな個室に全裸姿で座った状態で発見された遺体には、口の中にその亡骸本人の切り取られた陰茎が無造作に詰め込まれていた。陰部は切り取られたせいか出血があふれでて、地面にはべっとりと血が滴っていた。
被害者の名前は、久慈村翔といった。
久慈村翔の母親、久慈村十和子が苦悩に歪む顔で泣きながら、東條将臣に言った。
「息子はこんな目に合うような人間じゃないんです」
それは自分の子供を愛すなら、どの母親も願う言葉だった。自分の子供が誰かから恨まれていると思いたい親がいるだろうか。陰惨な亡骸には加害者から被害者への憎悪が表出していた。久慈村十和子の悲痛な声は、悲しみに溢れていた。
将臣はその冷めた目で静かに言った。
「この件は調査ということで取り組みますが、私はその結果が分かったとしても警察に情報は提供しません。久慈村さんが最終的にどうするかを決定してください」
久慈村十和子はその苦しげな表情のまま、頷いた。
将臣は淡々とビジネスとしてこの仕事を受けた。
彼にとっては誰が殺されようが金が入ればよかった。
誰が犯人であろうと、彼はただ仕事するだけだ。
将臣の調査はスムーズにいった。久慈村翔が無断欠席した前日に誰と会ったのかを詳しく探していき、怪しい人間は発見したもののその人間の素性が全くわからなかった。久慈村翔は8月12日の夜、市内の個室の居酒屋で女性と会ったあと、その女性ともう一人の人間に支えられたままその店から立ち去る姿を目撃されていた。監視カメラを拝見すると、女は出会いにふさわしい格好で、もう一人の男は全身黒ずくめだった。
将臣はこいつらだなと見当をつけた。将臣は裏社会の人間である槙野に金を流し、監視カメラに映った二人組を探してもらった。すると、女の方の名前が分かった。
白河わかなという名前だった。この女は成金の男の情婦だったことが複数回あり、その美貌もあってか、裏ではすこし有名な存在らしい。過去にAV女優として活躍していた時もあり、将臣はすぐに引っかかってくれて、笑みを浮かべる。
しばらく調べていくと、黒ずくめの正体も分かった。
異父兄弟のわかなの弟白河猛夫だった。
将臣は、彼らについて詳細に調べていった。