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サンズリバーサイド プロット  作者: 委員会プロデュース
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野間が来る

愛理とモリエが椅子に並んで座っている


会話 例題

聞きました女優の池上さんコロナで死にかけたって

心配していましたわ 私ファンなので

そうそう沢田さんのネットのデマ、ひどいわね


幸枝「モリエさん なにか思い出しましたか?」

モリエ「もうわたしはどうでもよくなっています

こうやってここにきて安らぐだけで」

幸枝「でも今の時間だけですね 安らぐのは 8時半になれば

そうです 定刻の嵐が 野間がやってくる」


幸枝が後方に退く


「そろそろ 野間様が?」


朝の空気にまだ湿り気が残る頃、ロビーの空気が一変した。

扉が開くと同時に、舞台の幕が上がるかのように、野間夫人が現れたのだ。

鮮やかな花柄のワンピースに、肩先で揺れる緩やかなウェーブの髪。

まるで銀幕のスターでも気取るかのような足取りだった。

「まあ、みなさんおそろいですのね。おはようございます。

というか――私、怒り心頭ですのよ」

 きっぱりとした口調に、誰もが一瞬身構えた。

「野間様、おはようございます。それで、どうなさったのです? 

何にお怒りで?」と幸枝が尋ねた。

 野間夫人は両手を広げて声を上げた。

「どうもこうもありませんわ! 

露天風呂に入っておりましたら、突然、猿が入ってきましたのよ!」

「え、猿?」モリエが目を丸くした。

「そうよ、猿よ、モンキーよ!」

「雨に遭いませんでしたか?」と幸枝が尋ねる。

「雨? ああ、降りましたわ。でもご心配なく。

露天風呂の横に生えていたツワブキの大きな葉を採って、

頭にかぶせましたの。帽子代わりに。すぐ止みましたし」

幸枝が思わず吹き出した。「まあ、ツワブキの葉を……!」

きっと野間夫人が葉を頭にのせた姿を想像したのだろう。

「なんですの。笑うところかしら。

それより猿よ。なんで猿と混浴なの! 

獣よ、猿は。美女と野獣じゃないのよ。

猿は入浴禁止――立て札でも出しておいてほしいですわ!」

「野間様、でも猿が字を読めるかしら?」とモリエ。

「この猿はかしこそうでしたのよ。

私の頭のツワブキをじっと見つめるんですもの。

だから、猿の頭にも葉をのせてやりましたの」

「あら、お優しい」幸枝が感心したように言う。

「目に浮かびますね」モリエがにやにやしながら言う。

「ツワブキの葉をかぶった美女と野獣が、並んで湯に浸かってる光景が」

「写真に撮ってポスターにしたら、外国人観光客がどっと来たりして」

「アダムとイブならぬ、ノーマと猿ですか」

「あら、洒落てるわね。ノーマってマリリン・モンローのことね」

 場が和やかになったところで、野間夫人がふと真面目な声になった。

「そうだ。モリエさん、今日は記憶に進展はありました?」

「変わらないですね」とモリエ。

「もう少しって感じじゃない? 

なんとかできないの? 電気ショックとかは?」

「無茶なこと言いますね」と幸枝が苦笑する。

「だって、この施設にもAEDって置いてあるでしょう? 

それを頭に当てるのよ」

「へえ……」

「止まった心臓が動くのだから、止まった脳も動いて、消えた記憶も戻るんじゃない?」

「意外と、うまくいったりして?」

「動いてる心臓が止まるんじゃない?」と幸枝。

「え?」

「記憶が蘇る前に死ぬわ」

 幸枝がモリエの方を見た。

「モリエさん、今、心臓は動いてますよね?」

「あなた、馬鹿ねえ」と野間夫人が呆れた声を出す。

「それより、電気がちゃんと体を通るかどうか――」

 モリエが苦笑いを浮かべた。

「あの、盛り上がってるところ申し訳ないんですけど……

電気ってビリビリするんですよね。それはちょっと……」

「野間様、却下だそうです」と幸枝。

「そう? なんか残念ね。遠慮はいらないのに。

私がやって差し上げますのに。1、2、3、ド〜ン!」

「爆発しちゃってるじゃないですか」

 皆が笑う中、モリエが静かに頭を下げた。

「皆さん、いろいろ考えてくださって、ありがとうございます」








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