ビブレ放火説
損害保険の調査員・優子は言った。
「ビブレの火事は、源賀マテリアルによる放火の可能性もあります」
沈黙が落ちた室内で、A子が手元の資料を見つめながら口を開いた。
「……『黄金が見つかった』って、後藤のメモにあったの、覚えてる? あれ、やっぱり関係してる気がするの」
優子が顔を上げる。
「黄金?」
「うん。『ビブレの地下から出た』って書かれてた。けどそれが公になる前に、あの火事が起きた。偶然にしては出来すぎてる」
しばらく誰も口を開かなかった。
A子がさらに続けた。
「でも結局、ビブレの火事で一番得をしたのって、野間コンチェルンよね」
その名が出た瞬間、窓の外で風が強く吹き、カーテンが揺れた。優子は立ち上がり、録音機のスイッチを入れた。
「じゃあ、整理しましょう。源賀マテリアルが火をつけたとして、動機は黄金の隠蔽。だけど、その裏で火事によって土地を手に入れたのは野間コンチェルン。……つまり、両者が共犯の可能性もあるってこと?」
あと、後藤の車転落事故死も不可解ね?
そこに、新たな人物が部屋に入ってきた。黒いパンツスーツに身を包んだ女性――弁護士の由梨だった。
「もう一つ、忘れてることがあるわ」
三人の視線が集中する。
「ビブレの敷地、もともと誰の名義だったか、ちゃんと調べた?」
由梨が静かに差し出したのは、登記簿のコピーだった。