第8話:追跡者レナータ(前半)
旧墓域を離れたあとも、森の中には沈黙が落ちていた。
鳥の声すら届かない──空気がどこか、張りつめていた。
ミリィは、歩きながら何度もちらりとエゼキエルの横顔をうかがっていた。
そして、ついに堪えかねたように口を開く。
「ねえ、エゼキエル……この前、あの墓地で言ってた“魂式演算”って……やっぱり、禁じられてるの?」
「そうだ。“深層記録術”──そう呼ばれて、神殿では長らく禁術として扱われている」
「でも……あなたのやってることって、死んだ人のことを“ちゃんと残そう”としてるようにしか見えないよ」
「それが、彼らにとっては問題なんだ」
エゼキエルは足を止めずに語った。
その声は、どこか遠くを見ているようだった。
「神殿の教えでは、“魂”は神の手に還るものとされている。
だから、その記録──とくに、死の記録を人の手で行うことは、“神の役割を侵す”とみなされる」
「……そんなの、おかしいよ」
「信仰とは、往々にして“人の理解の外”にあるものだ。
だが、私は信じている。記録されずに消えていく魂こそ、救われなければならないと」
「だから、追われてるんだね……神殿の人たちに」
「ああ。“魂に触れる者”として、私は既に“断罪の対象”となっている」
ミリィは小さく息を呑んだ。
その時だった──
カチャ……と、草の間から金属が擦れる音がした。
「……来た」
木々の向こうから姿を現したのは、
銀と白の重装をまとった騎士たち。そして──その先頭に立つ、女の騎士。
「ほんとに、来たんだ……神殿の人が……!」
ミリィの声が震える。
だがエゼキエルは動じない。ただ、ゆっくりと歩を止めた。
その騎士は、レナータ・グレイス。
かつて神殿都市で共に学んだ、記録術の優等生だった。
「記録者、エゼキエル・ノートン。
あなたの術式は、神の意思に反している。
魂に触れた記録は、神の記録を汚す。──ここで、あなたを拘束する」
「変わらないな、レナータ。
まだ“記さないことこそが敬意”だと信じているのか」
「あなたの記録は、“魂を地に縛る行為”だ。
それは“信仰の否定”だと、なぜ気づかない」
「ならば聞く。“名も記録も持たぬ死”に、誰が祈る」
「……!」
一瞬だけ、レナータの眉が動いた。
「祈る者のない魂を記録し続ける、それがあなたの正義か。
ならば、私は“記されぬまま神に還る魂”を守る。──それが、私の信仰だ」
「ならば、相容れぬな」
エゼキエルは静かに手を上げた。
空気が軋む。時間が歪む。
彼の周囲に、淡い幻影のような光の線が浮かび上がる。
──魂式演算、起動。
「“再演”──許すなッ!」
レナータが叫び、騎士たちが抜剣する。
戦いが、始まった。
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