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アッシェン・ヴェイル -灰を渡る者-  作者: 神威縁
第一章:旅の交点
8/12

第8話:追跡者レナータ(前半)

旧墓域を離れたあとも、森の中には沈黙が落ちていた。

鳥の声すら届かない──空気がどこか、張りつめていた。


ミリィは、歩きながら何度もちらりとエゼキエルの横顔をうかがっていた。

そして、ついに堪えかねたように口を開く。


「ねえ、エゼキエル……この前、あの墓地で言ってた“魂式演算(エイドロン・ロジック)”って……やっぱり、禁じられてるの?」


「そうだ。“深層記録術”──そう呼ばれて、神殿では長らく禁術として扱われている」


「でも……あなたのやってることって、死んだ人のことを“ちゃんと残そう”としてるようにしか見えないよ」


「それが、彼らにとっては問題なんだ」


エゼキエルは足を止めずに語った。

その声は、どこか遠くを見ているようだった。


「神殿の教えでは、“魂”は神の手に還るものとされている。

 だから、その記録──とくに、死の記録を人の手で行うことは、“神の役割を侵す”とみなされる」


「……そんなの、おかしいよ」


「信仰とは、往々にして“人の理解の外”にあるものだ。

 だが、私は信じている。記録されずに消えていく魂こそ、救われなければならないと」


「だから、追われてるんだね……神殿の人たちに」


「ああ。“魂に触れる者”として、私は既に“断罪の対象”となっている」


ミリィは小さく息を呑んだ。

その時だった──


カチャ……と、草の間から金属が擦れる音がした。


「……来た」


木々の向こうから姿を現したのは、

銀と白の重装をまとった騎士たち。そして──その先頭に立つ、女の騎士。


「ほんとに、来たんだ……神殿の人が……!」


ミリィの声が震える。

だがエゼキエルは動じない。ただ、ゆっくりと歩を止めた。


その騎士は、レナータ・グレイス。

かつて神殿都市で共に学んだ、記録術の優等生だった。


「記録者、エゼキエル・ノートン。

 あなたの術式は、神の意思に反している。

 魂に触れた記録は、神の記録を汚す。──ここで、あなたを拘束する」


「変わらないな、レナータ。

 まだ“記さないことこそが敬意”だと信じているのか」


「あなたの記録は、“魂を地に縛る行為”だ。

 それは“信仰の否定”だと、なぜ気づかない」


「ならば聞く。“名も記録も持たぬ死”に、誰が祈る」


「……!」


一瞬だけ、レナータの眉が動いた。


「祈る者のない魂を記録し続ける、それがあなたの正義か。

 ならば、私は“記されぬまま神に還る魂”を守る。──それが、私の信仰だ」


「ならば、相容れぬな」


エゼキエルは静かに手を上げた。

空気が軋む。時間が歪む。

彼の周囲に、淡い幻影のような光の線が浮かび上がる。


──魂式演算、起動。


「“再演”──許すなッ!」


レナータが叫び、騎士たちが抜剣する。


戦いが、始まった。


挿絵(By みてみん)

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