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アッシェン・ヴェイル -灰を渡る者-  作者: 神威縁
第一章:旅の交点
3/12

第3話:ミリィ

森はまだ、死を引きずっていた。


朝靄の中、エゼキエルと少女は並んで歩いていた。

足元を覆う濡れた落葉は、踏むたびにかすかな音を立てる。

鳥の声ひとつない、重たい静寂。それでも──夜の恐怖とは違っていた。


少女は、何度もちらりと隣の男を見上げた。

黒いローブに身を包み、視線はまっすぐ前を向いたまま。

話しかけてもいいのか。沈黙が続くほどに、迷いは深くなる。


「……ねえ」


思いきって声を出した。

男の足は止まらない。けれど、わずかに顔がこちらを向いた。


「さっきの、光の斧……あれ、あのおじさんが斧使いだったって、どうしてわかったの?」


エゼキエルは一拍の間を置いて答えた。


「斧の柄に、傷が三十七本あった。

 そのうち八本は切断面が浅く、刃こぼれの痕も偏っていた。

 あれは“左上から右下に斬りつける”癖のある斬撃痕だ」


「彼の道具、残された日誌、それらの情報を基に魂式演算(エイドロン・ロジック)を施しただけだ」


「……そうなんだ」


少女はよくわからないながらも、「すごい」という言葉を飲み込んだ。

この人はそういう反応を求めていない気がしたから。


少しの沈黙が流れたあと、彼女はふと思い出したように言った。


「ねえ……そういえば、まだ名前、言ってなかったよね」


エゼキエルは反応を返さなかったが、歩みを緩め、気配を向ける。


「あたし、“ミリィ”っていうの」


彼は頷いた。静かに、確かに。


「……わかった。ミリィ」


その名を確認するように繰り返した声は、冷たくも温かくもなかった。

けれど、彼がその名前を“記録した”ことだけは、ミリィにもわかった。


ミリィは、少しだけ笑った。


──不思議と、泣いたあとみたいに、心が落ち着いていた。


やがて彼女がまた声を出す。


「これから、どこに行くの?」


エゼキエルは、歩きながら空を見上げた。

その瞳に映るのは、霧に霞む太陽ではなく──死の痕跡。


「……死が多すぎる。

 この近隣に広がる死の波形は自然とは思えない」


「次は、山間の集落“コルヴァの谷”だ。

 記録によれば、そこでも“記録されない死”が出ている」


「“記録されない死”?」


「魂が抜けているのに、死因がない。

 あるいは、魂が“未定義な形”で割れている」


ミリィは眉をひそめた。

言葉の意味はよくわからない。けれど、怖さはわかった。


「……また、怖い人が出てくるの?」


「可能性はある」

「だが、必要なのは“恐れないこと”ではない」

「“恐れても、思考を止めないこと”だ」


その言葉に、ミリィは何も返さなかった。

けれど──ほんの少し、背筋を伸ばした。


霧の向こうに、朝日が少しずつ差し込んできた。

それは、灰の地に射す、ほんのわずかな希望の光だった。

改めて見返すとエゼキエルの観察眼、変態すぎるだろ…

そしてミリィかわいい。


エゼキエルの旅はまだ始まったばかりですが、

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