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アッシェン・ヴェイル -灰を渡る者-  作者: 神威縁
第一章:旅の交点
2/12

第2話:記録者エゼキエル(後半)

空気に残るのは、死と記録の匂い。


吹き飛んだ死者の骸は、もう動かない。

それは“倒した”のではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のようにも見えた。


少女は恐る恐る身を起こし、まだ泥だらけの膝を押さえながら、その男──

黒衣の学者のような風貌をした彼を見上げた。


男は、視線を少女に向ける。


灰色の瞳。冷ややかで、曇りのない光。

その中に、同情も怒りもない。だが──軽視もしていなかった。


「無事か」


その一言は、機械のように正確で、必要な情報だけを問うようだった。


少女は何も言えず、ただ頷いた。

声を出すには、喉がまだ震えていた。


男はすっと膝を折り、少女の目の高さにしゃがむ。


「君の村は……ここから東の麓だな」


少女がまた、こくんと頷いた。


「全滅か?」


言葉の選び方はあまりに容赦がなく、それでいて、誰よりも正確だった。


少女の目から、ぽろりと涙がこぼれる。


「……わかんない」


「お父さんも……お母さんも……目が……白くて、動いて……」


男は一瞬だけ、視線を逸らす。

そして、書を一度閉じた。だが、完全には仕舞わない。


「原因を探る。君の証言はその一助になる」


少女が顔を上げる。

その目には、涙と泥と、かすかな疑念が滲んでいた。


「……あなた、何者なの」


男は、ほんのわずかに唇を持ち上げる。

笑みというには小さすぎるが、何かを悟った者の余裕があった。


「私は記録者。名はエゼキエル・ノートン」

「魂に残された演算痕跡から、死の構造を読み解く者」


そして、ふと目を細める。


「……“魂式演算師(こんしきえんざんし)”と呼ぶ者もいる」


その言葉を聞いた瞬間、少女の表情がわずかに変わった。

まるで、それをどこかで耳にしたことがあるかのように。


エゼキエルは立ち上がり、手を差し伸べる。


「立てるか」


少女が頷く。しかし、立ち上がろうとするも、ややふらついている様子だ。


エゼキエルは少女の目線にしゃがむと、手を伸ばした。

淡く光る術式が彼の掌から少女の膝に流れ込む。


痛みが、少し引いた。


「……ありがとう」


「礼はいらない。だが君に一つ、選択を預けよう」


エゼキエルは少女をまっすぐに見た。

その目は静かで、どこまでも深かった。


「私は、“死の原因”を探る旅をしている」

「危険な道だ。だが、君が“記憶の続きを見たい(生きたい)”のなら──ついてこい」


少女は迷った。


けれど、足元のぬかるんだ地面を見下ろしたとき、

その瞳には確かに、小さな意志が宿っていた。


こうして、一人の少女と“死を記録する術者”の旅が始まった。

誰かのためでも、世界のためでもない。

ただ、魂の残した痕跡を──自分の目で見届けるために。

エゼキエルの旅はまだ始まったばかりですが、

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