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シャドウアイ   作者: 竜太郎
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勇者の証

 朝霜が木々の葉っぱに残っている肌寒い朝だ。平和な一日の証。まだ村全体は起き上がってない。牛乳配達と新聞配達ぐらいしか稼動していない。それがこの村のペースなのだ。他の村や地域に行けば、また違うが、この『フール村』は農業で栄えた。いわゆる農業地域の村なのだ。

 

 ここはラクリファ世界の一部。ラクリファ世界はこの地球の唯一にして最大の大陸。あとは北極大陸と南極大陸と少々の島々ぐらいしかない。すべての生命の文明はこのラクリファ大陸から生まれたラクリファ世界の軌跡なのだ。ラクリファ世界は地球をぐるりと大きなドーナツ状に広がった大陸だ。このフール村はラクリファ世界の北側に位置している『ノースタンビニア』という地域に属する村だ。

 

 ノースタンビニアは前述でも述べたとおり、農業で栄えてきた村だ。北半球に位置するノースタンビニアは土壌も良く、一年中穏やかで寒暖の差が緩やかな地域なので、このラクリファ世界の70%の食料を担っている。このフール村も農業でそれなりに賑わっている村だ。だが、この村自体、農作物の貿易は少々活発ではない。農作物はこの村で開かれる定期市で売買されているため、この村自身あまり外界との関わりは少ない。それに最近若者の農業を継ぐ若者が減ってきた。外界が知りたい。西や南やもっと外界に触れたいという若者が増えてきたのだ。そのため、5年前にこの村で初めての学校が出来た。


 この物語はその学校の中から始まる。一人の少年がこの世界を救う最強の勇者だということを、今はまだ一人の女の子しかそのことを知る者はいなかった。
















『ウェイル……ウェイル……』


 またこの夢だ。決まって最後は誰かが俺の名前を呼ぶ。最近の夢のオチはここで終わる。この声が聞こえると俺は夢から覚めてしまう。例えどれだけ眠たくて疲れていても。この声が聞こえたとき俺は起き上がらなくてはいけない。そんな魔力がある。


 机に突っ伏して寝てたようだ。俺以外はみんな鉛筆片手に真剣な眼差しで机とにらめっこしてやがる。自分の机も見てみる。真っ白の答案用紙と問題用紙。そうか、今テスト中か。


 ウェイルは大きく伸び上がった。眼をちらりと黒板の上に掲げている置時計に眼をやる。まだ20分も経っていない。もう少し寝ててもいいのかなとまた突っ伏そうとした。何かが俺を邪魔している。背中から鋭利な感触が伝わってくる。鉛筆かな? 背中は人間にとって一番感覚的に鈍感な箇所だから自信はないが。


「ウェイル……ウェイル……」


 蚊にでも話し掛けているのかってくらい細い声で俺に話しかける背後人。夢と同じような語り掛けだが、夢の中の人とは絶対とは違う。夢の中で俺を呼んだ声はこんな気色悪い男の声じゃなくて、まるでよく絵本とかに出てくるハーブを引きながら歌でも歌っていそうな妖精のようとな甘い女性のような声だと自分は思っている。実際にそんなハーブを引きながら歌っている妖精の歌など聴いたことないのだが、あくまでイメージの話だから突っ込まないでおこう。


「何だよ。オーラ」


 代わりにこっちもか細い声で答えてやった。後ろは振り返らないぜ。カンニングになっちまうから。


「いつもの頼むよ」


 これだ。この男は俺の席の近くでテスト受けていると毎度毎度俺にこのことを頼んでくる。まぁ、報酬はオーラの母ちゃんが作ってきてくれた弁当だから、貧乏な俺にとって昼飯代が浮くってのはおいしい話だから仕方なしに飲んでやっているんだ。


「わかったわかった。ちょっと待ってろ」


 俺は眼を閉じて、あれの準備をする。あれを使うの正直めっちゃ集中しなきゃいけないんだ。小さい時はやっちまった後は5分ほど休憩が必要なくらい疲れちまうんだが、今はそれほど疲れなくなった。キャパが広がったのかね。


 俺は一気に白紙の答案用紙に殴り書きをした。字が汚いのは勘弁してくれ。こちとらお前らみたいに外界に出てバリバリのエリートサラリーマンとかビジネスマンになるつもりはさらさらねえから、字の最低限の読み書きさえ出来りゃ生きていけるからな。


「ほらよ」


 俺は殴り書きした答案用紙をオーラに先生に気付かれないように手渡した。オーラはそれをサンキューとも言わずに受けとり、俺の解答を丸写しする。俺はカンニングの天才だ。今思えば確実に百点取れるのに、その代金が昼飯代ってのはちょっとサービスが過ぎたかなと窓の外を見ながら思っちまった。





「ほら、ウェイル」


 オーラは俺にたこさんウィンナーを爪楊枝で刺してよこしてきた。成功報酬が偽者の蛸とはね。まぁ、本物の蛸より好きなんだけどさ。


「にしてもすげえよな。ウェイル。いっつもいっつも」

「何が?」


 ウィンナーをほお張りながら応える俺。テスト後にはいつもオーラに俺の武勇伝を話させる。


「別に普通だよ。ただ単にあの優等生君の答案を見て丸写ししてるだけだから」


 優等生ってのは俺の右斜め前の席のアイーダだ。いっつもテストは平均90点以上。勉強ばっかりしてるいけ好かない野郎だけど、こういうときは役に立つもんな。


「でも、そのカンニングがばれねえからすごいよな。それに一瞬で丸写しするし。一体どんなトリック使ってんだよ?」

「知らねえよ。いいじゃねえか、別に」


 幼い頃からの俺の奇妙な力。集中したり眼に力を入れるといつもこんな現象が起きる。まるで時空がずれたかのように皆がスローモーションになっていく。どうしてか俺にもわからない。

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