覚悟
前世で楽しい思い出はひとつもなかった。
12歳のとき、父と弟が交通事故で亡くなった。母は鬱になり、入院生活に入った。
その出来事に戸惑いながらも、俺には大切な母がいた。母の元気を取り戻すために、毎日お見舞いに行き、明るい話をした。
しかし、1年後、母も亡くなった。
俺は家族でただ1人になった。
その日から、俺の笑顔は消えた。
中学では、死んだ顔をしているとか、死んだ魚の目をしているとか、変な噂や悪口を言われる日々。
俺は母の叔母に引き取られた。
叔母は結婚しており、お腹には赤ちゃんがいた。他人を気にかける暇もないはずなのに、叔母さんは俺にとても優しく接してくれた。
叔父さんも2人っきりの時間を大切にしたいと思ってたみたいだけど、文句を言わず一緒に過ごしてくれた。
それは、心が壊れた私にとって、ただひとつの癒しの場所だった......。
しかし、そんな場所も壊れることになる。
叔母さんが病院からの帰り道、工事現場の鉄骨が落ちてきて、亡くなった。
もう、何がなんだかわからなかった。
俺は呪われていたんだ。
俺が生きているから、大切な人がどんどん消えていく。
叔父さんは家で泣き崩れていた。幸せの絶頂から、どん底に叩き落とされた感情は底知れないほどの絶望だろう。
誰かのせいにしないと、冷静でいられないほどに。
「俺のせいだよ……叔父さん……」
そう言うと叔父さんは俺の首を締めつけてきた。
「"お前のせいだ"……!お前のせいで……!お前が呪われているがら"…!!!返せ…!"妻を返せ"!"お腹の子を返せ"!
"俺の幸せを返せ"ーーー!!!!!!!」
俺は抵抗しなかった。
俺が本当に呪われているのか、そうでないのか、正直わからない。
でも、もう、この世界で生きる意味を見いだせなかった。俺を殺すことで少しでも気持ちが晴れるなら、それが最善の選択だと感じた。
――――――――――
そして、俺はこの世界に転生した。
――――――――――
前世の記憶は持っていなかったが、マルコたちのおかげで思い出せた。
もう、前世みたいな人生は送らない…
きっと、神様がくれた新たなチャンスなんだ。
感謝するよ……
◇◆
「そ、そんな…あのマルコさんが……」
手下たちが怯えながら俺を向いている。
「どうした……?」
「こ、殺さないでください…!!」
「今まで本当に申し訳ありませんでした…!!許してください!!」
手下たちは土下座をして、謝ってきた。
「このことを誰にも言わないか?」
「は、はい、言いません…!!」
「わかった、じゃあお前ら立って、体を寄せ合え。」
「え…、わ、わかりました。」
そう言われ、2人はセオンの指示に従って立ち、体を寄せ合った。
その瞬間、心の中に憤りと決意が湧き上がった。
前世からの言葉が脳裏をよぎった。
『いじめた側は忘れても、いじめられた側は一生覚えている。』
中学の時、俺をいじめてきた奴らに復讐したいと思っていたけど、結局、やる勇気も、力もなかった。
相手は違うが……
この世界なら、前世からの復讐を果たせる…!
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【スキル:魔法奪取】
■―奪取リスト―
・ 悪魔の炎
・炎の矢
■使用:炎の矢
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「セ、セオン……?」
2人がいつもとは違う表情をしているセオンを見る。
「この位置だな……」
別の魔法を試してみるか。
「『炎の矢』」
セオンは体を寄せ合っている2人に向けて、マルコから奪い取った炎の矢を放った。
2人は驚き、ルキエが『水の盾』を使おうとした。
しかし、マルコが使った時よりもはるかに強力で高速であり、魔法は間に合わず2人の体を貫いた。
「がっ…ガハッ…!」
2人は倒れ、血を吐きながら息絶えた。
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◇奪取◇
◆癒し
◆水の盾
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「癒しか…。助かったな…」
■使用:癒し
セオンはマルコたちから受けた傷を一瞬で癒した。
魔力量の多さがその効果を促進させた。
そして、灰になり消えたマルコと体が貫かれた手下の2人を見つめる。
「さて、どうするかな…」