"回帰"
「マルコさん、あいつは、まだどれくらい耐えると思いますか?」
ルキエがマルコに聞いた。
「知らねえよ、どうでもいい。いづれ限界がくるだろ。」
「そうっすね!じゃあ、今日も例の酒場行きましょうか!」
ルキエは興奮しながらマルコに言った。
すると、マルコは微笑んだ。
「悪いな、今日は久しぶりに家族全員で食事なんだ。」
「そうですか。全然問題ありません!家族での食事楽しんでください!」
「ああ、話したいことがたくさんあるからな…!」
マルコはワクワクしているようだった。
――
「ただいま。」
マルコが家に帰ると、母と父が出迎えた。
「おかえりなさい、マルコ」
「おかえり、久しぶりだなマルコ」
「父さん…!忙しいのは分かるけど、帰ってこなさすぎだよ…!」
「悪いな、俺が作る魔導具じゃないとダメって奴がいてな!」
それを聞いたマルコは少し不満になったが、納得した。
「じゃあ、食事にしましょうか!」
マルコの母が言い、豪華な料理がテーブルに並べられた。
マルコたちは食事を始めた。
「やっぱり母さんが作る料理は美味しい!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。普段は全然そんなこと言ってくれないのに。やっぱりお父さんがいるからかしら。」
「うるさいな…!」
マルコは照れながらもそう言った。
「ははっ、もう、だいぶ仕事は落ち着いたから、毎日家に帰ってこれると思う。」
「本当?!」
「じゃあ、今度稽古でもつけてよ。」
「仕方ないな、わかった。」
「俺の話ばかりになってるな、マルコは最近どうなんだ?」
それを聞かれ、マルコは少し考えて答えた。
「授業は難しいけど、毎日楽しいよ!」
「そうか、新しい友達はできたか?」
その質問で少し間が空いた後、マルコは答えた。
「友達じゃないけど、面白いやつがいてさ…」
「そいつ、どの国にも属してない自由民で、魔法が一切使えないほんとダメなやつなんだよ!」
「父さん、試験担当だったから知ってるよね?」
「なんで、そんなやつを合格させたんだよ!俺、自由民の入学はダメって言ったよね!?」
それを聞いた父は少し険しい表情をした。
「マルコ、なぜそこまで自由民を嫌うんだ。」
「だって、セイクリッド学院は、ヴァルシア王国を守る聖騎士になるための場所だか……」
その言葉を遮るようにマルコの父は言った。
「昔、自由民が聖騎士になったこともある…。」
「確かに、そうだね。それがセイクリッド学院 唯一の "失態"だよ!結果的にその人は護衛任務で魔族に遭遇して殺された!ほんと、みっともない…」
「俺はそうは思わない、その自由民の聖騎士は最後まで諦めず戦って、護衛相手を守り続けた。そんな自由民が俺は好きだ……」
(父さんは何を言ってるんだ…?仕事のし過ぎで頭がおかしくなったのか…?)
「マルコ、お前に言うか迷ったんだが、言おうと思う。」
マルコは父の真剣な表情を見て、身を乗り出した。
「その自由民を合格にしたのは俺だ。」
「…!!?」
「ほ、本当…?」
「ああ、不合格になりそうだった所を俺が推薦して合格にしたんだ…。」
(なにをしてるんだよ…父さん、、)
「彼は魔法が使えないが魔力量は多い。実技試験ではそれをカバーするために、緻密な作戦を立てて挑んでいた。その作戦は失敗したが、彼は最後まで諦めず、ボロボロになりながらも戦い続けたんだ。」
(は?父さん、何言ってるんだよ、久しぶりの家族の食事だよ?もっと言うべきことがあるでしょ…、なんで、俺を褒めてくれないんだよ、なんで、あいつを褒めて、それを俺が聞かないといけないんだよ…、俺を褒めろよ!家族だろ!?俺の方が魔法が使えて強い!なんでだよ…やめろ、やめろよっ!!!)
「そんな彼に俺は惹かれた。まるで昔の自分を見ているようで…」
「やめろ"!!」
マルコは父が話している最中に大声をだした。
「!!?」
それに父と母は驚いた表情になった。
「やめてよ、父さん…もう、こんな話やめようよ…」
マルコは悲しい表情になりながら言った。
「そ、そうだな…。」
「すまないが、酒を持ってきてくれるか?」
「わかったわ、あなた。」
マルコは下をむいていた。
許さない・・・・
父さんをおかしくさせて、俺をこんな気持ちにさせたあいつを俺は絶対に許さない…
許サナイ・・・!!!
---
「マルコさん、おはようございます!昨日の食事、どうでした?」
ルキエがマルコに話しかけた。
「ああ、良かったよ、、」
マルコにあまり元気がなく、いつもの雰囲気とは違うことに気づき、手下2人は少し戸惑った。
「どうかしましたか?」
レウシが話しかけた。
「だまれ…!!俺に話しかけるな!」
マルコは怒った表情で言い返した。
「は、はい…」
2人は怯えた表情になった。
「それと、放課後、あいつを連れて、ヴァリアンの森に行くぞ。」
マルコが突然そんなことを言い出した。
「え、いつもの路地裏とかでいいんじゃないですか?あそこ、たまに魔物が出るみたいだし……」
「黙って俺が言うことに従ってろっ"!!!」
「は、はい…。」 「わかりました。」
2人は素直に従うことにしたが、その心中はわからなかった。
ーーー
僕はいつも通り過ごしていた。
常に1人で行動し、休み時間に少しだけ暴力を受ける。
でも、今日はマルコが暴力をしてこなかった。
いつものマルコじゃ内容な気がした。
でも、どうせ放課後になれば変わる。
だから言おう、マルコにもう、学院を"やめる"と…。
ー放課後ー
「おい、ついてこい…」
門から出ようとしたとき、ルキエに止められた。いつもは門をでてから、マルコたちに止められてたから不思議に思った。
手下の2人が僕を連れて行く。
いつもと何か違う。しばらく歩くと、ヴァリアンの森がが見えてきて、森に入った。
辺りに人は1人もいない。
しばらく歩くと、少し開けた場所にでた。
「連れて来ました。マルコさん。」
そこにはマルコが座っていた。
「きたか…」
「いったい、何を…」
恐怖しながらマルコに聞いた
「そんな、怖がるなよ…ただ、ちょっと話をしようと思って。」
少し、明るめな声だったが、マルコの目に光は一切なかった。
僕はそれを不気味に思い、学院を退学すると言う決断をした。
「ぼ、僕…学院を…!」
僕が退学という言葉を出そうとした瞬間マルコが遮るように、言葉を発した。
「認めるよ、俺の負けだ…。」
マルコが突然そう言い放った。
「え…」
その言葉に僕は戸惑い、心の奥深くで何かが揺れ動いた。
「よく、逃げずに耐えたな、セオン・クレスト、お前の勝ちだ…。」
マルコの言葉に、僕はふと胸が熱くなった。
(『耐えた』『勝ち』)その言葉は、この長く辛い地獄が終わりを告げることを示しているように感じた。
「俺はお前に嫉妬してたんだろうな…。魔力も俺よりずっと多く、頭も良い…。みんなから期待されている、お前が羨ましかったんだ…。」
マルコが悲しみに満ちた声でそう告白した。
その言葉に、僕はマルコの内に秘められた葛藤と苦しみを感じた。
「希望に満ち溢れたお前を見るのが辛かったんだ…。そんな俺はグリムウェル家の跡継ぎでしかなかった…。そんな自分を否定したかったんだ…!!」
マルコの声には怒りと悲しみが入り混じっていた。
僕はマルコの苦悩を理解し、同じ痛みを感じた。
そして、ふとこの言葉がでてしまった。
「ゆるすよ…。」
僕はマルコの目を見て言った。
「え……」
マルコは驚いた表情だった。
あんなことをされたのに、なぜ許すと言ったのか、僕自身も理解できなかった。
でも、その一瞬、マルコの心の奥底にある苦悩を感じて許すことができた。
「毎日、毎日、辛くて、楽しい時なんて1度もなかった…。それも全部お前たちのせいだ…。」
言葉が止まらなかった。
「でも……、許すよ…。」
その言葉が僕の心の内側から湧き上がった。
「全部なかったことにして、また、やり直そう…、マルコ…。」
その言葉を言って僕はマルコに微笑みかけた。
マルコはずっと驚いた表情だった。
そして、口を開いた。
「フンッ…はっはは!」
「ほんと、お人好しだな…お前は。」
「別に許してもらわなくていいよ、俺はお前を許さねぇから…」
ただ、困惑した。そんな、言葉が返ってくるとは思わなかったから。
「え、何を言って…、」
「退学する'しない'なんて、もうどうでもいい、父さんをおかしくさせたお前をただ"この世から消す"。」
それを聞いて、手下の2人はマルコに問いかけた。
「マルコさん、えっと、その、消すって言うのは…」
「そのままの意味だ言わなくても、分かるだろ。」
「え、マルコさん何言って…」
「黙れ!お前らも協力しろ…、そいつを抑えろ。」
「わ、わかりました…!」
僕は逃げようともせず、ただ抑えられ、困惑していた。
マルコは一切躊躇することなく、僕を殴ってきた。
その1発はとても重かった。
だが、それで終わるはずもなく、何度も何度も殴ってきた。
「俺の気持ちがお前に分かるか!セオン!!」
「親に期待されず、挙句の果て見放され、誰も俺自身を見てくれない…!!」
何があったのかは分からない。
でもそんなのどうでも良かった、僕は理解したこいつはおかしいんだと。
僕を『消す』?
何を言ってるんだ…。
もう、充分殴って気が済んだだろ?
だから、やめろよ、、。
「セオン、、なんでお前なんだ?」
「なんで、俺じゃなくて、お前なんだ…?!元の父さんに戻してくれよ…!」
そう言いながら、マルコは僕の指を握って折った。
「う"あぁあ"ーあ"ーー!!!!」
「なんだ、お前まだ慣れてなかったのか。もう、何回も折ってるのに…。」
「1本ずつ行くぞ…。」
それからマルコは僕の指を1本1本折っていった。
僕は叫び続け意識が朦朧としていた。
「癒しした方がいいですか?」
レウシがそう言った。
「何言ってんだ…?どうせ、消すんだ、しなくていい。」
手下の2人はマルコが本気でやるつもりと気づき、怯えた表情になった。
「おい、まだ意識あんだろ…?」
マルコが僕にそう言い、僕は少し涙を流しながら顔をあげた。
マルコは僕を顔に近づけてきた。
マルコは真剣な眼差しで僕の顔を見つめて言ってきた。
「おい、この森を知ってるか?」
「最近では聖騎士がこの辺の魔物を一掃して、ほとんど姿を見せないんだけど、数年前まではここは魔物の巣窟だったんだ。」
「"魔物はいくら倒しても、どこからともなく現れるんだよ"…。」
マルコがここに連れてきた時点で、僕は何となく予感した。
「セオン、お前を殺す…。」
「そして魔物に殺されたことにする…。」
ははっ…、そうくると思ったよ…。
僕みたいなやつは、魔物に襲われて殺されたってことにしても、誰も疑わないだろう…。
ほんと、クソだな…。
今さら足掻いたところで何も変わらない。
僕が弱いから。
弱いから、馬鹿にされ、弱いから、いじめられ、弱いから、やられっぱなしで、弱いから、誰も守れない…!!!
お母さんと村のみんな悲しむかな…。
ごめんね。結局、何も変えることが出来なかった。
ごめん…。
そういえば、今日お母さんからの手紙届く日だったな…。
最後に読みたかったな…。
くそ……、くそっ…。
「セオン・クレスト、最後は楽に殺してやるよ。」
マルコはそう言うと、膝から崩れ落ちているセオンから少し距離をおいて手を前にだした。
「お前らも少し離れてろ、火傷するぞ…。」
それを聞いて手下の2人は即座に離れた。
「じゃあな…、『炎の矢』…!!」
マルコが僕に向かって魔法を使った。
それは、燃え盛る炎が矢のようになっていた。
諦めかけていた。
だが、心の奥底で悔しさが燻っていた。村のこともある。
でも、それ以上にあいつに復讐がしたかった。
許さない…。
俺もお前を許さないっ…!!
『炎の矢』がセオンに向かう。
当たるまで約1秒
「"殺してやる"…!!!!!」
その言葉が口から出ると同時に
セオンの頭に前世の記憶が流れ込んだ。
「はっ……!!???!!!!」
0.8秒で全てを思い出し、整理をする。
目の前には炎が広がっていて、当たる寸前。
セオンは右手を前にだし、炎の矢を当てた…。
マルコたちはそれを見て確信した。
「直撃、確実に死んだな…。」
「おい、お前らはあいつの死体を運べ。」
「それから、先生に…」
マルコが手下2人に指示を出している最中、誰かの笑い声が聞こえてきた。
その笑い声は炎の矢によって、煙が充満したところから聞こえた。
「ハッハハ、ハハハッ!!ハッハッハ……。」
「マ、マルコさん…。あの、煙の中から笑い声が……!」
ルキエが口を開けてそう言うと、マルコは少し冷や汗をかいていた。
(確実に当たっていた…そんなわけがない…!)
少しずつ煙が消えていき徐々に姿が見えてくる。
「はっははっ…はー、、結局、この世界も前世と何も変わらないな…」
人々は優越感に浸りたがり自己価値を高めたがる。そして他者をいじめ、身分や出身、能力で差別する。不安や不満を紛らわせるために、弱者を踏みにじり、傷つけ、己の劣等感を埋めようとする…。
結局…どの世界にも闇はあるってわけか……。
クソみたいな世界だ…
いや……違うぞ……
この世界には守りたい人たちがいる…。
お母さんや村のみんなが居れば、前世では得られなかった、幸せを得ることができる。
だから…
それを邪魔するやつは、
「殺す…!!」
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【 スキル:魔法奪取 】を取得
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