はじまりーきっかけー
入学式の会場に向かった。
そこは広大な会場で多くの人がイスに座っていた。僕も自分の座る場所まで進んだ。
「おい、あいつ確か、庭で土下座してたやつだよな?」
「そうだよ、入学式の初日からマルコに目をつけられるなんてかわいそうだよねー」
「まさか、退学させられるんじゃね?」
そんな会話が耳に入ってきた。
男性の先生が喋りだした。
「皆さん、揃いましたね。では、始めさせていただきます。まずは校長からのご挨拶です。」
50歳ほどの少し年老いた男性が前に出てきた。
「えー、120人の皆さん、初めまして。校長のヘンリー・ローレンスです。今後ともよろしくお願いします。」
ヘンリー校長を見てすぐに感じた。
この人、強い…!魔力がとても強く、存在感がビシビシ伝わってくる!今まで、お母さん以外にこんな強い人を見たことがない。
「まず、この学院に合格したことを誇りに思ってください。真面目に授業を受け、日々鍛錬に励むことで2年間で聖騎士になれるという最高の学院です。くれぐれも、おかしいことはしないように。皆さんにはこの2年間〜…」
ヘンリー校長は生徒たちに対して学院での過ごし方などを話した。
「以上です。次は、このライトサイド学院の学長であり、このヴァルシア王国の王子【ストライト・ウィリアム】様からのご挨拶です。」
ヘンリー校長がそう言うと、多くの生徒たちがざわめき始めた。
「まじかよ、ジェイク・ウィリアム様で次期王様だよな…」
「なんで、わざわざこの学院の学長になったんだ」
「案外、暇だったりして...」
「一体どんな人なんだろうね〜」
こんな話し声がたくさん聞こえた。
そして、足音が聞こえ、ついにその姿を現した。
それを見た瞬間しばらく何も考えられなかった。
僕と年齢がさほど変わらない美しい青年。とても整った顔立ちで目が輝いている。なんといっても、その魔力。
校長のヘンリーの魔力がとても強いと感じた。
でも、それは違った。
これはもう比べることすらできない。
次元が違う、説明ができないほどに。
体が感じ取っている、あの溢れ出る魔力は全ての闇をも消し去りそうな神々しい魔力だった。
おそらく
(全生徒と先生でかかっても勝てない…)
僕はこの時既に憧れを抱いていた。
ただそれと同時に恐怖も感じていた、
昔から感じたことのある恐怖を…
「皆さん、初めまして。ストライト・ウィリアムです。私はこのセイクリッド学院の方針や統括、そして安全管理を担当しています。何があろうと、この学院は守ります。ウィリアム家が代々守り継いできたこの学院を…。」
「以上です。」
ストライトは微笑みながら後ろに退場した。
すごい…!僕がなりたいのはこんな人だ、守りたいものを守れる強さを持った人。
この人に教えてもらえないのが残念だ。
「ではこれで入学式を終わりたいと思います。それぞれ表記された自分の教室に行ってください。」
男性の先生がそう言うとみんなぞろぞろ動きだした。
――――
1年のクラスは4クラスある。
指定された教室に入ると30人程いた。
僕は前の席に座った。
すると、誰かが僕の前にやってきた。
「なんで、お前が俺のクラスに居るんだよ…空気悪くなんだろ!」
マルコが怒り睨みつけながら言ってきた。
「そんな…」
マルコと同じクラスなんて最悪だ…。何されるか分からない…!クラスを変えて貰わないと!
恐怖が心を支配し、青ざめた顔になった。
「せ、先生にクラス変えて貰えないか言ってきます…!」
「あいつと一緒なんか、最悪ですねーマルコさん。」
「もし、クラスが変わらなかったらどうするんですか?」
連れの2人がそう言うと
「何、言ってんだ…?」
「あいつが、学院内居ると思うだけで吐き気がする、クラスが変わっても変わらなくてもあいつを、」
「退学させる…!」
マルコは不気味な笑みを浮かべながら言った。
―――――
「何を言っているんだ、今更クラスを変えるなんてことはできない。」
担任の先生がそう言った。
「そ、そんな…」
僕は小声で言った。
「お願いします…このままだと、何をされるかわからないんです。」
「何?…」
「先生〜、はじめまして、マルコ・グリムウェルです。いつも俺の父さんがお世話になってます。」
マルコはそう言いながら会話を遮ってきた。
「うん?ああ、お前がグリムウェル家の子か、俺はハレス・ストーンフォージ。」
「いつも魔導具が助かってると言っていると父に伝えておいてくれ。」
「はい、是非伝えさせていただきます。」
「ところでマルコ・グリムウェル、ここにいるセオン・クレストとは知り合いか?」
マルコがじっと僕の目を見つめてきた。
「はい、知り合いです、朝会って仲良くなったんです。」
な、何を言っているんだろう…?。こんなにも僕を忌み嫌っていたのに、なぜこんな嘘をつくんだ。
「セオン・クレストがクラス移動したいと申し出ているが、俺の力では今からクラスを移動させることはできない。だが、グリムウェル家の願いということならクラス移動することがおそらくできる。どうする。」
「なに言ってるんですか……せっかく仲良くなれた人と同じクラスになったのに、他のクラスに行くなんて許しませんよ…」
その低い声は僕を恐怖にした。
嫌な予感がした、マルコと目が合いわかった。
彼が僕を見つめる目は人を見る目じゃないことに。
「そうか、お前がそう言うのなら、セオン・クレスト 悪いな、やはりクラス移動はできそうにない。マルコ・グリムウェルと仲良くやれ。」
先生は僕の肩に手をおいて言った。
そしてこんなことも言ってきた。
「セオン・クレスト、お前は俺が思うに強くなる。」
「魔法が使えないと聞いたが、俺の目から見ても分かる膨大な魔力量そして、入学試験のテストは満点。その才能を活かしてこのクラスで強くなっていこう。」
「ははっ、やっぱり魔法が使えない奴が入学したっていうのは本当だったのか。」
マルコが声を小さくして言った。
マルコは何かを決心したかのように、席の方を向いた。
「魔法が使えない奴がこの学院に入学するなんて、聞いたことないですよ!!」
マルコがクラス全体に響き渡るように言った。
それを聞いた同じクラスの生徒がざわめき始めた。
「魔法が使えないのに入学できたのかよ…」
「俺の友達、結構すごい魔法を使えたのに落ちたぜ…」
「まじかよ、なんかありそうだな…」
「マルコ・グリムウェルと揉めてるみたいだし、関わらないでおこう。」
「俺もそうする…」
「私もそうしよー。」
などの言葉がたくさん交わされていた。
初対面の生徒たちが顔を見合わせながら、不穏な空気が漂い始めた。
僕が "魔法が使えないのに入学できた" ということに疑念を抱いた生徒達は周りと話しはじめ、いつの間にか友情みたいなものが芽生えていた。
そしてクラスでのグループは既にできてしまった。
僕は黙っていた。
そして、焦りと不安に襲われていた。
僕の悪い噂は広まる一方で、僕が入れるグループは何処にもなかった。
どうしよう……このままじゃ僕はずっと学院で孤立してしまう…、友達と一緒に授業を受けて、一緒にご飯を食べて、一緒に強くなっていくっていう夢を見ていたのに……、、
「お前ら少し黙れ!!」
ハレス先生が大きな声を出してクラスを静めさせた。
「黙るのはあなたの方だ、ハレス先生」
「なんだと…?」
「たかだか、1クラス担任を持っただけで俺より権力があると思ってるんですか…?」
「どういう意味だマルコ・グリムウェル」
「このクラスを仕切るのは俺だってことですよ、、」
「ふざけるな、あくまでお前はセイクリッド学院の生徒で"入学させてもらう"立場なんだ。そしてここは俺のクラスなんだ…。」
「いいや、俺は"入学してあげる立場"だ、グリムウェル家が経営する魔法工房での魔導具は一級品、この学院には必要不可欠。そして、そんな父さんの仕事を継ぐのはこの俺。関係が途切れるとグリムウェル家はこのセイクリッド学院に一切、魔導具を提供しない!」
マルコは自信に満ちた口調出言い放った。
「そして、提供しなくなった原因はハレス先生にあると校長に言います。」
マルコはハレスに強気で反論した。
「なんだと…!」
先生自身もグリムウェル家の魔導具の重要性に理解しており、もし、それが自分のせいで提供されなくなれば退職は確定……。
「先生にも大事な家族がいるのでしょ?」
「なんでそれを!!」
「顔を見れば分かります…」
「安心してください、ただじっと何も言わず見守ってくれていたら充分です。」
「………。」
ハレス先生は葛藤しながらも、受け入れるしかなかった。
「…わかった…。」
そしてそれを聞いたマルコは不気味な笑みを浮かべた。
「先生、"邪魔"しないでくださいよ…?」
ここから、始まった…