1話
僕はハルマベイルを後にし、ヴァルシア王国へと馬車で向かい、ようやく到着した。
「この4日間、本当にありがとうございました。」
「頑張れよ。」
馬車から降りると、目の前には壮大な城がそびえ立ち、ヴァルシア王国の栄華を象徴していた。周りには立派な建物が並び、人々が賑わっていた。
「やっぱりすごいなー!」
市場の通りに出ると、多くの人々が行き交い、活気に満ちていた。色とりどりの屋台が立ち並び、新鮮な食材や手工芸品が並んでいる。
「どれも美味しそうだな〜。」
歩いていると、セイクリッド学院が見えてきた。門衛に招待状を見せると、すんなり入れた。
広大な庭園を抜けて、本館に向かう途中、僕は考え事をしていた。
「ここに来るのは入学試験以来か…。お母さんも期待してたけど、簡単じゃないよな…。」
突然、誰かと肩がぶつかった。
「おい、どこ見てんだよ!」
声を荒げたのは、荒っぽい風貌の男だった。
「ご、ごめんなさい…!」
男は僕を一瞥すると、腕を組んで言った。
「謝るくらいなら、最初から注意して歩けよ。」
その瞬間、男の背後から声がかかる。
「マルコさんにぶつかっておいて、謝って済むわけねぇだろ!」
その声に振り向くと、男の手下と思われる二人が顔を出した。
「マルコさんはグリムウェル家の末裔だぞ!分かってんのか!?」
多くの生徒たちが通る中でその男の声が響く
「お前、、自由民だな…?」
男の言葉に反応したのは僕だけではなかった。周りの生徒たちもじっと僕を見つめていた。すると、マルコが冷ややかな笑みを浮かべた。
「名前は?」
「セ…セオン・クレストです…。」
「出身は?」
「ハルマベイルという…」
「ハルマベイルか、聞いたことがないな。」
「どこの国に属している?」
「どこの国にも属していません…」
その言葉に周りの空気が一気に凍りついた。
「自由民がこの神聖な場所に来るなんて、どういう了見だ?帰れ。」
マルコは呆れた顔でこちらを見る
「え、でも…」
僕の言葉はすぐにかき消された。周囲の生徒たちが僕を見て嘲笑うようにニヤニヤしているのが、痛いほど伝わってきた。
「なにやってんだよ!もうすぐ入学式だぞ!」
その時、先生が現れたが、マルコの存在に気づいた瞬間、苦笑いしてさっさと去って行った。
「自由民の入学なんて認めてないって言ったはずだろ…」
マルコの言葉に、僕はひとしきり動揺したが、何も言えなかった。
「とりあえず、土下座して謝れ。」
「え?」
「俺にぶつかったたんだ、それくらい当然だ…。」
その言葉に、胸が苦しくなった。こんなことで土下座することになるなんて思ってもいなかったが、結局、彼の威圧に屈してしまった。
「うっ…!」
その瞬間、激しい頭痛が走る。思わず顔を歪める。
「ん?なんだ、気持ち悪いな。」
マルコたちは無視して歩き出し、他の生徒たちもその後に続いていった。
僕はしばらくその場でうずくまり、立ち上がることができなかった。
少し遅れて、さっきの先生が駆け寄ってきた。
「さっきはすまなかった…。あれには逆らえないんだ、グリムウェル家のことだからな。」
「いえ、気にしないでください。」
「ありがとう。君、名前は?」
「セオン・クレストです。」
「君があのセオン君か!噂は聞いている、入学試験で筆記試験満点、魔力量学年1位!期待してるよ!」
「筆記試験満点で魔力量学年1位!?」
「知らなかったのかい?合否の紙に詳細が載ってただろう?」
「嬉しさのあまり見てなかったな。」
「でも、僕は魔法が全く使えません。実技試験で0点でした。」
「君は魔法の本質を理解すれば使えるようになる。セイクリッド学院で学べば、君の潜在能力を引き出せるよ。」
先生の言う通りだ。ここでなら、魔法が使えるようになるかもしれない。
「もしかしたら、スキルを取得するかもしれないし。」
「スキル…。」
スキルは魔法と似ているが、より強力で貴重だ。ほとんどの人は持っておらず、生まれながらにして持っている者もいれば、“特定の出来事や経験” を経て取得する者もいる。昔いた勇者は仲間が魔族に殺されて、スキル「無限剣技」を取得したという。それから、勇者は無限の剣技を習得して魔王を倒したらしい。どうせ、僕なんかにスキルは取得できない。魔法が使えるようになるだけで充分だ…。
「もうそろそろ時間だな。これ、セオン君に必要な荷物!制服や寮の部屋の鍵、地図が入っている。更衣室で制服に着替えてから行くんだよ!紙には予定やクラスが書いてあるから、その指示に従って!また、どこかで!」
「はい、わかりました。」
先生との話は終わり、僕は制服に着替えて入学式会場に向かった。
セオンは寮生活、ほとんどの人は家から通学する。