決着
「何者なんだ……お前は……!」
〔その傷で、なぜ普通に走れているのだ……!〕
セオンはただ一歩ずつ、確実に魔族へと向かっていく。
その姿は、まるで復讐の鬼のようだった。
「クソが……『破滅の蔓 絶』!」
魔族が蔓を振るって迎え撃とうとするが、セオンは悪魔の炎を纏った手でそれを払うかのように蹴散らしていく。
「なんだとっ……!?」
魔族は、今まで感じたことのない恐怖を味わっていた。それは、ただの人間の持つ力ではなかった。
「はぁ゛…! はぁ゛…!!!」
(今にも気を失いそうだ。自分でも、なぜ普通に立って走れているのか不思議なくらいだ――)
セオンは既に数箇所を貫かれ、出血多量だ。それでも、「癒し」を使う暇などないことを理解していた。今、この瞬間を逃せば、絶対に殺すことはできないと――。
「う゛ぉぉ゛ーーー!!!!!!」
視界はぼやけ、ほとんど見えない。それでも、父を殺した魔族への復讐の一念だけで、セオンは襲いかかる。
「来るなっ、来るな!!!」
魔族は冷や汗を流し、焦りを露わにする。
「蔓の壁、守護蔓!時間を稼げ!!」
蔓の壁の前に、守護蔓が二体、セオンの前に立ちはだかる。
「邪魔だ……゛!」
セオンは大量の血を流しながら、守護蔓二体をなぎ倒した。
蔓の壁も軽々と破り、魔族の目前に辿り着く。
しかし――魔族の準備は既に整っていた。
「私はもう妥協しない……! 全ての力を出して、貴様を殺すぞ!!」
セオンの前には、無数の蔓が集まり、細長いリング状の口を形作っていた。
その中心に腐敗した緑光が凝縮されていく。
「喰らえ…」
「まずい……」
セオンは一瞬で感じ取った。
まともに喰らえば死ぬと…
「腐蔓光線……!」
森を腐らせながら奔流のように押し寄せる緑の光線。
まともに受ければ、一瞬で肉も骨も消し飛ぶだろう。
「っ、クソが……『悪魔の炎』!!」
セオンは血まみれの体に鞭打ち、紫黒の炎を叩きつけた。
全身が悲鳴を上げる。だが、魔力の奔流は止まらない。
二つの力が激突し、轟音が森を震わせる。
しかし均衡は一瞬、セオンの炎はじりじりと押し負けていく。
「くっ……はぁ……はぁ……ここまでか……」
(上位魔族相手に、よくやった方だ……数か月前の俺じゃ、ありえなかった)
諦めそうなとき、いつも脳裏に浮かぶのは、村の笑顔。母の声。
そして――血に沈んだ父の姿――
「……ああああああああああ!!!!」
心臓が張り裂けそうなほど魔力を叩き出す。
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【スキル:魔法奪取】
■使用中:悪魔の炎
:???
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「!!?」
瞬間、セオンは悟った。
(同時に……使える……!? なら――!)
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【スキル:魔法奪取】
■使用中:悪魔の炎
:癒し(ヒール)
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炎と同時に淡い光が彼を包み込む。
攻撃と回復、相反する魔法の同時発動。
「ば、馬鹿な……! そんなこと、人間にできるはずが……!」
驚愕する魔族の声を無視し、セオンの炎は再び勢いを増していく。
(身体は持ち直した……残りの魔力で決める……)
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【スキル:魔法奪取】
■使用中:悪魔の炎
:炎の矢
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癒しを断ち、炎の矢に切り替える。
さらに自らの魔法「火炎の球」を重ね撃ち
三重の魔力が激突し、森に轟音と地鳴りが響く。
「な、なんだ、この魔力は……!」
遠くで狩りをしていた冒険者たちすら戦慄するほどだった。
――
「うおおおおおおお!!!!」
「グアアアアアア!!!!」
――
魔力の奔流がぶつかり合う。
そして――。
「゛消えろぉぉおおおお゛!!!」
「な゛っ……私の奥義を……超えるだと!?……
くっ…ぐあああああああ!!」
魔族の身体が炎に呑まれ、黒焦げに焼き尽くされて灰と化していく。
「ば、化け物め……! 貴様は……いずれ……」
最後の呪詛を吐き、魔族は完全に消滅した。
―――
セオンはその場に膝をつき、力なく笑った。
「……やった……のか……お父さん……俺……」
限界を超えた魔力の反動。
血まみれの体はそのまま地面に崩れ落ちた。
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◇奪取◇
◆破滅の蔓
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――異常な魔力を感じ取った冒険者たちが森に駆けつける。
「な、何が起きたんだ……!?」
「あそこで倒れてるのは……?」
荒れ果てた戦場の中心に倒れるセオンを見つけた彼らは、驚愕の表情で担ぎ上げ、森を後にした。
奪取リスト
・悪魔の炎
・炎の矢
・水の盾
・癒し
・破滅の蔓




