プロローグ 決意の日
僕はセオン・クレスト、15歳。
この村――ハルマベイルは、どこの国にも属さない50人ほどの小さな集落だ。
魔物の脅威に晒されることもあるけれど、みんなで支え合いながら生きている。
僕にとってこの村は家族そのもの。だから、僕は村を守るために強くなりたいと願い続けてきた。
そして今日、その夢に一歩近づくことができた。
「合格したー!」
魔法で操られた鳥が届けてくれた手紙――セイクリッド学院の入学招待状を握りしめ、思わず叫んだ。
でも、15歳になっても魔法を使えない僕には、正直、この招待状は不思議に感じられた。普通、幼い頃から少しの魔法は使えるものだから。
お父さんは強い聖騎士で、お母さんも昔は強い魔導師だった。そんな両親を見て、僕も強くなりたかった。でも、村の友達が魔法を使える中、僕だけが魔法を使えない。孤独感に押し潰されそうになることもあった。
「僕、魔法を使えないのに、なんでだろう…?」
その時、お母さんが優しく言った。
「きっと、セオンの優しさや真面目さ、努力家であることが試験官に伝わったんだろうね。」
その言葉に少し安心した。でも、心のどこかで納得できない自分がいた。
「どんな困難が訪れても、僕はやるぞ…!」
お母さんの顔が少し曇った。
僕は言った。
「お母さん、僕がライトサイドになれば、この村を守れる。もう誰も魔物に殺されることはないんだ。」
「ライトサイドになれば、お金も増えるし、この村もヴァルシア王国に入れてもらえる。そしたら、みんなが助かるんだ!」
僕は何度も言った。そうじゃなきゃ、何も変わらないから。
そして、あの日のことを思い出す。お父さんが死んだ日を。あれだけの強さを持っていたお父さんでも、魔族には勝てなかった。あの時、僕の心には穴が開いた。
だからこそ、僕は強くならなければならない。そして、いずれその魔族を討つんだ。
「お母さんを幸せにしてみせる!」
お母さんは涙を浮かべて、微笑んでくれた。
「ありがとう、セオン…。辛くなったら、いつでも帰ってきなさい。」
「うん。」
―――
次の日、僕は旅立ちの日を迎えた。家の扉を開けると、村のみんなが見送りに来てくれていた。
「セオン、頑張ってね!」
「絶対に戻ってくるんだよ!」
「無事を祈ってるから!」
おばあちゃんや、友達の両親、村長、みんなが見送ってくれる。みんな、僕を励ましてくれる。
「ありがとう!行ってきます!」
僕は声を張り上げて言った。
そして、馬車に乗り込むと、少しだけ胸が締め付けられる思いがした。
それでも、僕は前を向いて進むしかない。
突然、背後から呼びかける声がした。
「セオン!」
振り向くと、カイルが必死で走ってきていた。彼も同じくライトサイドを目指していた。
「頑張れよ、セオン!俺、必ず追いつくから!次の試験で絶対にセイクリッド学院に入ってみせる!」
その言葉に、僕の胸は熱くなった。
「うん、カイル!待ってるよ!」
カイルと互いに拳を突き出して、誓い合う。その瞬間、友情の絆が強くなった気がした。
馬車は進んでいき、村がどんどん小さくなっていく。その光景を目にしながら、強い日差しを感じた。
光は希望の象徴だと感じたけれど、同時に心の中で不安が渦巻いていた。
光があれば、闇もある。
その闇が、僕をどれだけ苦しめることになるのか、今はまだ知る由もなかった。