挑戦
『魔法が使えない』という理由で疑いが消え、ロザリナ先生に完璧な『癒し』を受けた後、アレク先生の研究室への訪問を約束し、学長室を後にした。
そして、俺は学院の裏手で魔法が使えるか試してみることにした。
――
「使える!『スキル』を使わなくても、魔法が使える!」
俺の手からは少しだけ赤い炎が舞い上がった。
魔法が使えることは昔からの夢で嬉しいことだった……
[スキル]を使わなくても魔法が使えることに喜んでいる理由は……
もしスキルを使って、スキルを持っていることが知られれば再び疑われ、俺が犯人として処刑されてしまうに違いないからだ……
だからこそ【魔法奪取】というスキルは、絶対に人前で使うことはできない……。
「あのー……。」
いつの間にか、セオンの背後には小柄で茶髪の女がいた。
腰には細い剣をぶら下げていた。
「!!!!?」
おどろいているセオンに女は不思議そうな顔で問いかけてきた。
「ここで何をしてるの…?」
いつからだ……
この女、一体いつからいたんだ!?
俺がスキルって言葉を発した時から居たんだとしたら、まずいぞ……
もし聞かれてたらやるしか……
「あ、いや、ただの息抜きだよ。ここなら誰も居ないし、静かだから。」
セオンは冷静を装い質問に答えた。
「そうなんだ。」
「君はなんでここに?」
「ボクはここで少し強い魔力を感じたから来てみたら君が居たって感じ。」
彼女は至って無表情で答えた。
「いつから、、居たの……?」
瞳を合わせながら、彼女に問いかける。
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「いまさっき来たよ。そしたら、君が手から炎を出していて、無言だったら声をかけたんだ。」
独り言を言った後にきたのか、なら良かった。
でも、なんで俺はこいつがいることに気づかなかったんだ。
しばらくの沈黙が続き、彼女が口を開いた。
「君、強いね。」
彼女は真剣な表情で俺に向かって言った。
「え、いや、俺なんてまだ魔法が使いこなせない劣等生みたいなもんだよ……!」
「ふーん、そんなことないと思うけどな、ボクこの学院に来たばっかりで、知らない人も多いけど君はボクが見たなかで強い部類だよ。」
なんだか上から目線だな……。
「俺よりも君の方が強いと思うよ!ずっと魔力も強い感じがするし……!」
彼女は恐らく、魔法で気配を消していたのだろう。
気配を消すのはかなりの魔法の使い手じゃないとできない。
「うん、ボクの方が強いよ。」
「魔力量は負けるかもしれないけど、魔力自体の強さで言ったら、言っちゃ悪いけど相手にならないよ。」
彼女はとても自信満々で答えた。
その態度が少し気に食わなかったが、我慢をした。
「そ、そうかもね…!あはは、」
俺がそう言った瞬間彼女は背中を向けて歩きだした。
「あ、あの!俺セオン・クレストっていうんだけど、君の名前はなんていうの?」
「リン・レステニア。」
リンは名乗りながら振り返りセオンと目を合わせた。
「次会う時は『ライトサイド候補選抜戦』だね。」
うん?なんのことだ……?
「あ、ちょっと待って!」
俺が止めようしてもリンは止まらずに歩き去っていった。
「ライトサイド候補選抜戦」って一体なんなんだ……?
ひとまず、怪しまれずに済んで良かった。
これからは独り言をなるべくしないと俺は誓った。
【ライトサイド候補選抜戦】については……
「エリックたちに聞くか……」
―――
ここ、最近は食堂でエリックとソフィアたちと一緒にご飯を食べて会話をしている。
「魔法を使えるようになった!?本当かい?セオン君。」
「ああ、手から少しだけど炎がでるようになった。」
「おめでとう、セオン。そのうち初級魔法を使いこなせるようになるわね。」
「ありがとうソフィア。」
「ま、まぁ!もうそろそろ使えるようになると僕は分かっていたから驚かないけど!」
「さっき、あんだけ驚いていたでしょ……」
「はははー…」
(いずれ使えるようになると思っていたが、こんな突然だなんて…、なにかあったのか…。)
「なあ、エリック。」
「どうしたんだい、セオン君。」
「『ライトサイド候補選抜戦』ってなんだ?」
「毎年この時期に行われる恒例行事で、各クラスの上位成績者4人が集まってA〜Dブロックのトーナメントで戦うんだ。そして、各ブロックの優勝者4人がライトサイド候補生になる。もしかして知らなかったの?」
「ああ、そんなの知らなかった……何を言ってるのか、『ライトサイド候補生』とか……」
「まさかライトサイド候補生を知らないとは、意外ね。いいわ、私が教えてあげる。」
「この学院には各学年4人の『ライトサイド候補生』がいるの。ライトサイドになるためにはまず、この候補生にならないといけないわ。そして、2年生の終わりごろ、ライトサイド候補生4人がトーナメントで戦い、勝者1人が『ライトサイド』になるための挑戦権を得る。それが『ライトサイド候補生』よ。」
「なんて道のりなんだ、ライトサイドになるのは候補生にならないといけない……。今の俺の力じゃクラスの成績上位者にも入れないぞ…。」
でも、スキルを使うことができたら……。
「もしかしてセオン君、ライトサイドを目指してるのかい?」
「そうだけど、なんだ?」
「安心しなよ、セオン君。『ライトサイド候補選抜戦』は毎年行っているって言ったよね?」
「ああ、言ってたな。」
「候補生が集まって戦うのは2年のおわりごろ。つまり、1年生で候補生になれなくても、2年生で行われる『選抜戦』でライトサイド候補生になれば良いって話だよ。」
そうか!なるほど、無理に今ならなくても、2年生までに強くなって挑戦すればいいのか。
うん…?なら、なぜ1年生で候補選抜戦を行う必要がある?
「なぜ1年目で行うのか疑問に思ってる顔だね〜、その理由は………」
「ライトサイド候補生になれば、学院内で自分専用の部屋が与えられたり、自分に合った魔導具が提供されたりするだけでなく、さまざまな支援が受けられるんだ。例えば、特別なトレーニングや個別指導などなど……、学院での最高の生活を送ることができるんだよ!」
エリックは満面の笑みで言った。
「だからなのか……、確かにそれはすごいな!」
「そうだろ?だから、」
「僕はなるよ……」
さっきまで笑顔だったエリックが真剣な表情になった。
「エリック……」
「ええ、私もなるわ。『候補生』に。」
ソフィアも声を張り上げて宣言した。
「えっ、ソフィアも目指すのか……」
俺が小さな声で言うと、ソフィアは優しい口調で返してきた。
「セオンは"まだ"ならないの…?」
その言葉に、俺の胸が高鳴り、決意が固まった。
「どうせ、候補生になるんだ。なら……」
「早いに越したことはないな…!」
「うん…!その調子よセオン!」
「ありがとうソフィア。」
そこで、黙っていたエリックが口を開いた。
「そうか、セオン君も"今"目指すのか……。」
「はー、正直、セオン君とは戦いたくないな……」
「えっ……」
「だって魔法を、まだ使いこなせていないだけで、選抜戦までの2ヶ月特訓したら、普通に僕より強くなりそうなんだもん…!」
「そんなのわからないだろ…。」
俺がそう言い返すとエリックは目を逸らして言う。
「どうかな、まあ…、同じブロックにならないことを祈るよ……」
「そうだな、正直、俺もエリックとは戦いたくないと思ってる。」
それを聞いたエリックは笑みを浮かべた。
「へー、奇遇だね……でも……」
セオンとエリック互いに目を見つめ合った。
『もし、戦うことになったら、
本気でやり合おう……』
『ああ……』