嬉しさと楽しさ
「なんで、一人称が『俺』に変わってるのかな…?」
エリックの興味津々の表情が俺に向けられた。
その問いに対して、俺は少し考えた後、答えた
「まだ、学院に入学したばっかだから、僕にしてただけで、もう、慣れてきたから俺に戻したんだ…!」
言葉を紡ぎながら不安と緊張が高まる。
「へぇー、それ本当?」
「......」
セオンに冷や汗がでる。
記憶が戻ってから僕から俺に変えたこと、全く気にしてなかった...!
でも、一人称が変わっただけで、ここまで疑われるのか。
「なんだか、僕の知ってるセオン君じゃないような気がして。」
「どういう意味だ...」
「いや、決してセオン君を疑ってるわけじゃないんだけど...、なんだか今日のセオン君はいつもとは違う気がして......」
「僕、特技みたいなものがあって、人の目を見 てその人がどんな人か分かるんだけど…...。
昨日まで目にあった、希望の光が今日のセオン君にはないんだ......。」
エリックは俺の目をじっと見てきて、その言葉を強調してきた。
(こいつ、なんて観察力だ...、でも......)
「何を言ってるんだ?エリック。
俺の希望は消えてない。守りたいものがある限り、俺は光であり続ける......!」
その時のセオンの目を見てエリックに疑いの余地はなかった。
「!?、ははっ...。どうやら、僕の勘違いだったみたいだ......。」
「そうか、ならそれでいい。」
「ありがとうセオン君、これからよろしく。」
そう言ったエリックはセオンと握手をしようと手を出した。
「え、ああ。」
(傍観者だったくせに)という言葉が少しよぎったが、俺はその手を握った。
「エリック、何してるの!?」
「やあソフィア、セオン君と話してて友達になったんだ。」
「いや、握手しただけで友達にはなってない。」
「えっ、違うの!?じゃあ友達に...」
「ならない。」
「え〜〜...」
俺とエリックが話している光景をじっと見つめるソフィア
「セオン・クレスト」
ソフィアの表情は真剣で、どこか悲しげな顔をしていた。
「?...」
「私はソフィア・ムーンハート。許してもらおうなんて思ってないし、言い訳もするつもりはない。でも、これだけ言わせてほしいの、将来この国の平和を守る聖騎士として、君を守ることができなかったこと、本当にすまなかった..!!」
ソフィアは頭を下げながら謝ってきた。
「頭をあげてよ、もし、ソフィアさんが俺を守ろうしてたら、ソフィアさんもいじめの対象になってただろうし、仕方ないさ。」
「っ...不甲斐ない......!」
「気にしないでよ、まあ、これからよろしく。」
俺はソフィアに向けて手をだした。
「あっ...ええ、よろしく。」
ソフィアは少し戸惑った様子だったが、握手した後に少し微笑んだ。
「ソフィア。呼び捨てでいいわよ!」
「う、うん、わかった。」
セオンをじっと見つめるエリック
「ねぇセオン君、僕の時は怒ってきて、ソフィアの時は仕方ないっておかしくない!?」
「だって誠意が感じられなかったから。」
「まじかよ......。」
「エリックは考えすぎなのよ、もっと正直に言いたいことを言いなさい。」
「言ってるよ!!」
「ハハッ...」
なんだろう、この感じ、村に居た時を思い出す。みんなが笑って話しているのを近くで見て、つい俺まで笑顔になってしまうこの感じ、
村以外でも、楽しいと思えるなんて。
◆◇
「おい、あいつら、よくあんなやつと話せるよな......」
「ほんとよね〜マルコがこの学院に帰ってきたらあいつらも標的ね...。」
他の生徒たちが俺たちを見ながら話していた。
マルコはもう死んでいるから危害を加えられる心配はない。
でも、エリックとソフィアは他の生徒たちから避けられる存在になってしまうかもしれない。
マルコが死んでいることを言いたいが。
言えば俺がやったとバレる。
それだけは絶対に避けなくてはいけない......。
俺なんかと一緒にいたら......
「セオン、大丈夫か?」
ソフィアの優しい声に、セオンは安心感を覚えた。
「なんかバカみたいなこと言ってるけど、そんなこと、帰ってきてから考えればいい話だ。」
「そうね、やっとセオンと話せたんだ、もう見て見ぬふりなんてできないわ…!」
その言葉はセオンにとって、嬉しさ、安心、勇気を与える言葉だった。
これからも、この2人と学院を過ごしていきたいと思うほどに。
「"セオン・クレストッ"......!!」
誰かが教室に入ってきて、聞き馴染んだ声が教室に響いた。
(この声はハレス先生......?)
「話している暇はない......!」
「【ストライト・ウィリアム】様が
お呼びだ......!!」
(なにっ......!!??!!)