疑惑
―― 数分前 ――
【セイクリッド学院の学長室にて】
「ストライト様、ヴァルシア王国に隣接するケルスト王国で何やら不穏な動きがあるようです…。」
ストライトを補佐するグリムがそう報告した。
「無視してください。父上も同じことを言っていました。」
「戦争でもしようものなら喜んで相手をしてあげますよ。どうせ我が国が勝ってケルスト王国を飲み込むだけです.....」
「了解しました、ストライト王子。」
それを聞いたストライトは少し目を鋭くした。
「王子はやめてくださいと言いましたよね?」
「あ!すみません、ストライト様」
「はぁ〜〜.....」
私はジェイク・ウィリアムとエレナ・ウィリアムの息子であり王子。
そして、自由を求める者である。
なぜなら王子としての義務や責任に縛られるのは嫌だから。
それに、王族のなかで1番強い私が王位を継ぐことは確定している。
王になれば、今以上に責任に追いやられるだろう……
父上に嫌だと言っても、聞いてくれない。
気を紛らわすためにセイクリッド学院の学長に就任したが、特に変わりはない。
王子としての日々が続いているだけだ。
「あの、グリムさん……私は……」
ストライトが真剣な眼差しで何かを言おうとした瞬間何かを感じた。
「!!!?…」
(なんだ…今の魔力は。ヴァリアンの森方面から今まで感じたことのない"炎魔法"……)
「グリムさん!ヴァリアンの森で魔物討伐でもしてますか?」
「いえ、そのようなことは確認されてません。」
「変な魔力を感じました。聖騎士5人ほど連れてヴァリアンの森に確認しに行きましょう…。」
「は、はい!了解しました!」
――
ストライトたちはヴァリアンの森へと足を踏み入れた。森の中は静寂が漂い、何も感じられない。
「何も感じられませんね…」
グリムの声が静かに響いた。
(今は何も感じない。でも確かにこの森から感じたことのない炎魔法の気配がした。)
「進みましょう。」
ストライトは率先して進む姿勢を見せ、仲間たちは彼に続いた。
やがてストライトたちはセオンがマルコたちを殺した場所に辿り着いた。
「こっ、これは…!」
グリムを含め、聖騎士たちは何かに貫かれて死んでいる2人の姿を発見した。
「学院の制服!?ストライト様、これはいったい…」
「調べます。」
ストライトは死んだ2人の体に手をかざし、魔法を唱えた。
「『魔法洞察』」
ストライトの声が響くと、その場に魔力が集まった。
「炎の矢…彼らは炎魔法によって殺されたみたいです。」
「ほっ、本当ですか…!?」
グリムはそれを聞き、焦る表情になる。
「間違いありません。」
ストライトは冷静な声で返した。
「魔物は名前のある魔法を使えない……。つまり、魔物の仕業ではなく、【人間】か【魔族】によるもの……。」
「ええ、そうなりますね……。」
「なんてことだ…...」
グリムらは困惑しながら、その事実を受け入れざるを得なかった。
だが、ストライトは腑に落ちていなかった。
(学院にいた時に感じたあの魔力はなんだったんだ…。)
「魔族がこの森の中にいるかもしれないので、聖騎士を集めて調査を。そして、この近くに住む人に聞き込みをお願いします。」
「了解しました。ストライト様は?」
「私はこの2人の身元を確認して、親御さんに会いに行きます。」
ストライトは沈んだ表情でそう言った。
◇◆
「マルコがまだ戻ってこないわよ!」
マルコの母は心配そうに父に訴えた。
「何だって?!まあ、あいつだから、どこかで友達と遊んでるんだろう…」
父は怒りを隠せない口調で答えた。
「こんな時間まで帰ってこないなんて、今までなかったわ。」
「ねぇ、あなた?セイクリッド学院に確認に行かない?」
「はあー、わかったよ…。」
(仕事で疲れてるっていうのに……)
帰ってきたら、久しぶりに叱ってやろう…
――次の日――
「なあ、おい今朝の記事見たか!?」
「ああ、見たよ、まじでやべぇよ…」
「マルコ・グリムウェルが行方不明で手下の2人が何者かに殺されてたって話だろ…?!」
「あそこの森に魔族がでたとか…」
「でも、最近は魔物の出現も少なかったんだよ?」
セイクリッド学院の生徒たちはその内容で持ちっきり、真実を知りたくてみんな騒いでいる。
――
その頃セオンはセイクリッド学院の門の前に立ちながら心地の良い風を感じていた。
「ふぅーー、気持ちいいな〜…」
学院に入学して以来初めてだな、こんなにリラックスできているのは。
昨日はいろいろあったけどお母さんからの手紙も読めた。
セオンへ
【『セオン、手紙ありがとう。無事にセイクリッド学院に入学できたみたいで本当に良かった。
私や村のみんな、今頃セオンはどうしてるだろうって話をいつもしているわ。
クラスのみんなとすぐ仲良くなれるなんて、さすがセオンね!セオンの優しさがみんなを惹きつけるんだと思うわ。大変な日々が続くと思うけど、無理はしないでね。みんなと協力し合って困難を乗り越えて、またセオンの笑顔を見せてね!』】
母より
ありがとうお母さん、また、"本当の笑顔"を見せに帰るよ。
大丈夫だ、何も心配することはない。
【魔法が使えない】俺が疑われることはない…。
俺は絶対的な自信を持って学院に足を踏み入れた。
――
「おい、来たぞ…!」
教室に足を踏み入れるとクラスの生徒たちは俺を不気味がるような目で見た。
結局こいつらいじめの現場を傍観していたただけの加害者だ。
やり返したい気持ちはあるが、今は変に動くと怪しまれる。学院内では様子を見ているだけが賢明だ。
なぜなら、"あいつ"がいるから……
【ストライト・ウィリアム】あいつにはなるべく関わらない方がいいような気がする…。
セオンが定位置に座ると、周りは静まり返った。マルコたちがいなくなっても、誰も声をかけてこないし、誰も隣に座ろうとしない。まぁいつものことか...
そんなことを思いながら静かにしていると誰かが話しかけてきた。
「ねぇ、隣いいかな?セオン君」
その声に振り向くと、上の席からいつも俺を見ている人が立っていた。
「えっと、確か…」
「エリック・フロストフォード、セオン君に謝りたいと思って。」
エリックは誠実そうな表情で言ったが、俺はその言葉に信じることができなかった。
「ずっと助けようと思ってたけど、僕の力では何もできないと思って、ただ見てるだけになってしまったことを謝らせてほしい。ごめん…!!」
エリックの言葉に偽りがないように感じられたが、それでも信じられなかった。
「それをなぜ、マルコたちが居ない今言うんだ?」
「いや、だって、セオン君と話したら殴られるって聞いて…!」
エリックは少し軽口を叩きながら言った。
「そこは正直なんだな…、まあ単刀直入に言うと、許さない。」
俺は厳しさを込めて言った。
「なんで?」
「俺は1度、このクラス全員から裏切られたんだ…!体の傷は治せても、心の傷は治らないんだ…。」
それを聞いたエリックは静かに頷いた。
「確かにそうだね、セオン君の言う通りだ。僕はただ君に許してもらって責任を逃れようとしてただけなのかもしれないな……。」
エリックのその言葉には疑いの余地がなかった。
何が『しれないな。』だ、最初からそのつもりだったくせに。
いつか、制裁してやる…。
•••
「ところでセオン君、、
なんで、一人称『俺』になってるの……??」