夢喰いバクちゃんの夢
体を揺さぶられる。
「ねえ〜〜おーきーてーよー!」
(んあああ〜〜おはようございます、ご主人)
一日の始まりはあいさつから。ご主人に教えられた。
「えへへ、やっと起きた〜〜朝ご飯たべよ!」
ご主人はとことこと階段を降りていく。
わたしはバクのユメ。仕事はご主人の悪夢を食べること。夢を食べるのが種族の習性で、わたしはあくまでその習性を仕事にしているだけ。
ご主人というのは小学生の未来ちゃんである。道端にいたわたしを助けてくれたひと。
「もぐもぐ………あ、今日もわるい夢はみなかったよ。前はこわい夢ばかりみてたのに最近はぜんぜん見ないな〜」
だってわたしが食べてるんだもん。わたしが食べてなかったらご主人今頃泣きじゃくってるような夢だったよ。
口には出さないけど。
「それじゃあね。ユメ!いってきまーす」
いってらっしゃい。
「信じてよお母さん!ほんとにユメはいるの!」
「落ち着いて、未来。いい?それはあなたの妄想よ。あなたにはみえているのかもしれないけど、ユメはいません!」
「絶対ユメはいるよ!もう知らない!」
「待って!未来!」
お母さんのわからず屋!絶対いるんだから。今日だって……たくさん遊んだんだから。
棚の隙間から、ユメがちらりと顔をのぞかせている。
「ユメ!!」
ご主人がしょぼんとしている。何かあったのかもと思って少しだけのぞいてみたら、気づかれた。
「ほらやっぱり!ユメはいるの!」
ご主人に抱きかかえられる。ご主人はわたしにぎゅうぎゅう顔を押しつけてくる。
「会いたかったよ、ユメ!!これからずっと一緒だからね……!」
未来の容態が急変してからもう2時間になる。私達夫婦は娘の無事だけを祈っていた。
未来は昔から体が弱くて、すぐに倒れてしまう子供だった。
「……未来?」
駆け寄ると、娘は途切れ途切れの息でつぶやいた。
「ユメちゃん、ちょうだい……」
ユメちゃんをかばんから出して娘に渡す。
ありがとう、そう弱々しく言うと、ユメちゃんを顔に押しつけた。
その後のことはあまり覚えていない。でも忘れられないのは、ただ冷たく響いた機械の音と、娘の幸せそうな顔だ。
「未来……おつかれさま。かんばったね」
私にはその言葉しかかけられなかった。
「族長。あの……」
ためらいながら族長にたずねる。
「ああ、わかっておる。あの女の子のことじゃろ?ルール違反の罰を聞きに来たんじゃな」
「はい…」
本来のバクの仕事は夢を食べることであって、夢を見せることじゃない。わたしはそれを破って未来ちゃんに夢を見せた。
夢では、未来ちゃんのお気に入りのぬいぐるみになりすまして友達としてふるまった。
未来ちゃんは友達がほしいと願っていた。小さな頃から入院を繰り返して、友達となじめなくて……だから、わたしが未来ちゃんの友達になって、最期に未来ちゃんの夢を叶えてあげようと思った。
今でもこれでよかったのかはわからない。もしかしたら、人間の友達をつくってあげたほうが良かったのかもしれない。
「くい。話を聞きなさい」
「あ、は、はい!すみません……」
「お前は、確かにルール違反をした。その分の罰は受けてしかるべきじゃ。でもな。よーく覚えておけ。お前のその夢を見せる力は確かにあの子を救ったんじゃ。元来バクとは悪夢を食うもの。それで人を救うんじゃ。だから、その"人を救いたい"という思いを忘れてはならんぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
明日も、これから先もわたしは誰かを"ユメ"で救うだろう。夢を食べて。
これからたくさんの人と出会い、夢に悩んでいる人を救う。それがわたしの、夢喰いバクの夢だ。
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作者なんですが、執筆中に泣きました。こんな程度で……と思われますね。涙もろいのは改善が必要だ……