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閉鎖された炭鉱



 レヴィアスの言った通り、炭鉱にはすぐに到着した。

 空から見下ろす王都はとても小さく、エルヴォラの足では何時間もかかるような道のりが、アルゼスに乗ると一瞬だった。


 森の中の炭鉱の前は、以前は採掘をされていた名残で木々が伐採されて開けている。


 アルゼスは器用にその場所に降り立った。

 礼を言うエルヴィオラに、気にするなと言わんばかりに軽く首を振った。


 炭鉱の入り口には、危険、立ち入り禁止という看板があり、縄が張り巡らされている。


『この先、有毒ガスが発生しているため、立ち入りを禁ずる。王都炭鉱組合』


 看板の注意書きを読んで、エルヴィオラは暗いばかりの入り口に視線を向ける。


 縄は張られて看板があるだけなので、入ろうと思えば簡単に入ることができる。

 周囲を見渡すが、さばかんの気配はなかった。


「有毒ガスの中に入って行ったんなら、猫はもう駄目だろう」

「まだ、分からないです。捜索に行ってきますね。レヴィアスさんたちは、待っていてください」


 エルヴィオラは、自分に浄化の守護膜の魔法をかけた。

 体が薄い膜に覆われて、体重が軽くなるような感覚がある。


 炭鉱の入り口に向かおうとすると、レヴィアスに呼び止められた。


「待て。俺も行く」

「迷惑はかけられません。レヴィアスさんは待っていてください」

「お前に何かあれば、マリさんやハルに叱られる」

「付き合わせてしまい、ごめんなさい。ありがとうございます」


 エルヴィオラは丁寧に礼をして、レヴィアスにも浄化の守護膜をかけた。

 今まではアイビーを守るためと、何でも一人で行ってきたが、こうして誰かが一緒にいてくれるというのは心強いものだと思う。


 アルゼスは体格がいいので炭鉱の中に入ることができない。少し寂しそうに「ギュア」と鳴いた。


「あぁ、わかってる。すぐに戻る」


 レヴィアスはアルゼスの言葉を本当に理解しているようだった。

 エルヴィオラもなんとなくはわかる。おそらく「気をつけて」と言われている気がしたので、「では、行ってきますね!」と元気よく挨拶をした。

 共に炭鉱に入っていく。すっかり光源さえなくしてしまっている炭鉱の内部の通路は、足元さえ見えないほどに暗い。

 エルヴィオラは光魔法で明かりを灯した。


 光の球がごつごつした岩肌を照らす。白い霧がかかって見えるのが、有毒ガスなのだろう。


「有毒ガス……原因は何なのでしょうね」

「さぁな。それにしても視界が悪い。猫がいるとは思えない」

「賢いさばかんちゃんが帰らないのですから、それなりの事情があるはずです」


 ──死んでいるとは、思いたくないけれど。

 

 不吉な考えを打ち消して、エルヴィオラはひたすら奥へと進んでいく。

 さらに白いもやが濃くなって、浄化の守護膜を張っていても、息苦しさを感じた。


「あ……!」


 もやの中に倒れている小さな動物の姿がある。

 よくは見えない。だが、視界が悪い中でも鮮やかな色合いのピンク色のリボンだけは確認することができた。


「さばかんちゃん!」


 エルヴィオラは思わず駆け出した。倒れているだけだと信じたい。

 弱っているのなら、回復魔法で助けてあげなくては──。


「待て、エル!」


 レヴィアスに呼ばれて、エルヴィオラは一瞬足を止めた。

 エルヴィオラの眼前に、突き刺さる太い脚がある。

 それは甲殻類の足に似ている。エルヴィオラの体よりも大きな足である。

 

 硬い岩盤を簡単に抉り取った足は、レヴィアスが呼んでくれなければエルヴィオラの体を貫いていただろう。


「……っ、これは、一体」

「毒ガスの原因だ。アラクネー。洞窟や深い谷を住処にしていて、催眠効果のある有毒ガスを住処に撒く。眠らせて貯蔵し、じわじわ弱らせて食うためにな」

「あぁ、よかった! ということは、さばかんちゃんは無事です!」


 天井にはりつく異形の姿がある。

 それは太い脚を持ち、六つの赤い瞳を持つ、巨大な蜘蛛の姿をしていた。

 アラクネーという魔物に遭遇するのははじめてだが、大タランチュラと呼ばれている大きめの毒蜘蛛の姿をした魔物なら、退治したことが幾度もある。

 あれの、もっと大きいものだろうと、エルヴィオラは判断した。


 眠らせるだけの毒ガスなら、命は無事だ。

 問題は、どの程度の期間、眠っていたのかということだが。

 息さえあれば、エルヴィオラの回復魔法でなんとかできる。命を蘇らせることはできないが、それ以外なら。瀕死の状態でも元の元気な状態に戻すことができるのが回復魔法である。


「ここは、おそらくはアラクネーの貯蔵庫だ。俺たちは、餌を奪いにきたと思われている」

「では、さっさと倒してしまいましょう」

「戦えるのか、エル」

「もちろんです!」


 シーサーペントを討伐することはできないが、空を飛ぶものや、海の中のものでなければエルヴィオラにも対応ができる。


「だが、杖も持っていない」

「お母様の形見の杖があったんですけれど、とられてしまって……」

「悲しい話だな」

「大丈夫です、杖がなくても魔法は使えます。まずは、さばかんちゃんを助けないと!」


 エルヴィオラはさばかんに向かって駆け出した。

 魔法を使うのはいいが、高出力の魔法を使えば、さばかんを巻き込む可能性がある。


「おい、エル! 猪か?」


 レヴィアスはやれやれと天井を仰ぎ、それから背中に背負っていた槍を手にした。




 

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