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はじめての任務



 エルヴィオラは借金を抱えていて、生活費も稼ぐ必要がある。

 それよりなにより、傭兵団に世話になるわけだから、日がな一日寝ているレヴィアスの隣でぼうっと時間を潰しているわけにもいかない。


「レヴィアスさん、お願いです、働きましょう……! 私が働きます、レヴィアスさんは見ているだけでいいので」

「面倒くさいな……先日、働いたばかりだ。ハルにうるさく言われて、大量発生したシーサーペントの討伐をした」


 気怠げな口調でレヴィアスは言って、本当に眠そうに欠伸をする。

 ハルマディルクと共に乗合馬車に乗っていたのは、任務の帰りだったのだ。

 シーサーペントとは海にいる魔物である。巨大な蛇の形をしていて、船をよく沈める。


「船で討伐に出たのですか? 凄いですね、海の中の魔物と戦うことができるなんて。さすがは先輩です」


「せんぱい……」


「はい! 先に働いている上司のことを先輩と呼びます。上司……同僚……? ともかく、先輩と呼ぶものだと聞いたことがあります。私にも先輩ができてとても嬉しく思います」


「……エルヴィオラ。あんた、今までよく無事に生きてこれたな」


「はい、体は健康で頑丈なほうだと思います」


「そういう意味じゃないんだが」


「ともかく、レヴィアスさん。お仕事に行きましょう。私が一人で働きますので、ほら、なんていうのでしたっけ。お目付役として一緒にいてくれたらいいのですから。二人一組で仕事をする決まりなのですよね、規則を破るわけには行きません」


 腕を引っ張るエルヴィオラを邪険にするわけでもなく静かに見ていたレヴィアスは、仕方なさそうに軽く息をついた。


「あまり動かない場合は、浮遊魔法をかけます。浮力により軽くなったレヴィアスさんを紐で縛って運ぶという強硬手段を取らせていただきます。私は、働かなくてはいけません」


「……わかったよ。仕方ないな。いいか、エルヴィオラ。俺は極力働きたくない」


「はい、それはわかりました」


「危険な時だけは、助けてやらなくもない。気が向いた時は」


「もちろん、それで大丈夫です。レヴィアスさんは傍にさえいてくれたらいいので」


 レヴィアスが仕事に同行してくれるという約束を取り付けたエルヴィオラは、満足気に頷いた。

 それから依頼を受けるために、やや離れた場所にある受付カウンターの中の椅子に座っているジェレイズの元へと向かった。

 先ほどからエルヴィオラたちのやりとりを眺めていたジェレイズは、椅子から立ち上がるとエルヴィオラに向かって手を伸ばす。


「エルちゃん」


「はい、どうされましたか、ジェイさん。今、レヴィアスさんと本日の予定の計画をしていました。無事に仕事に取りかかれることになりましたので、依頼を受けたく思います」


 小走りでエルヴィオラはジェレイズに駆け寄った。

 アイビーを神官学校に送り届けて、レヴィアスの説得をしていたら、すでに昼過ぎである。

 せめてどんな依頼があるのかを確認したい。

 できることならはじめての依頼を受けて、仕事をしたい。

 レヴィアスやハルマディルクのようにシーサーペントの討伐をするのはとても無理だが、エルヴィオラにもできる仕事があるはずだ。


 ジェレイズは伸ばした手で、エルヴィオラの頭を撫でた。

 猫を撫でるような撫でかたで。

 エルヴィオラは驚いて、自分の頭を押さえた。撫でられたことなど、両親が生きていた頃以来である。


「さすがは長女だね、エルちゃん。あの死ぬほど面倒くさがりのレヴィアスを、こんなに早く連れ出すことができそうだなんて。数日はかかるかと思っていたよ」


「その数日の間、働かないわけにはいきません。レヴィアスさんの分まで頑張りますね、私」


「そんなに気合を入れなくても大丈夫だよ」


「ジェイさん、どんな依頼があるのかを教えてくださいますか? それとも、自分で掲示板で確認すればいいのでしょうか?」


「どっちでも大丈夫。僕がいるときは、僕に話しかけてくれると嬉しいな。エルちゃんと話したいし。僕がいない時は、掲示板に貼ってある依頼を受けていいよ。ただ、依頼によって難易度が違うからね、受ける時はレヴィアスと相談をして。まぁ、レヴィアスなら大概の依頼はこなせるけど、やる気の問題があるからねぇ」


「わかりました」


 ジェレイズは説明をしながら、机の中から冊子のようなものを取り出した。

 そこには、いくつかの依頼の手紙が挟まれている。


「依頼とは、お手紙で来るんですね」


「その場合もあれば、直接依頼人がここに来る場合もあるね。それを僕が聞いて、内容を書いてサインをもらっておくんだ。早急の依頼は、その場で手の空いている人に頼むこともあるけれどね。ハルとレヴィアスに行ってもらったシーサーペントの討伐は、早急にとのことだったから、すぐに向かってもらったんだよ」


「そうだったのですね。危険な魔物ですから、無事に討伐できて何よりでした」


「うん。今のところ残っている依頼は、そこまで緊急でもないね。危険度によって星がふってあるから、参考にしてみて。迷ったら、僕が選んであげるけれど、まずは自分で見てみる?」


「はい!」


 エルヴィオラは広げられた冊子に目を通した。

 十通ほどの手紙が、紐で閉じられている。


 ざっと確認すると、星が一つのものから、十個もついているものまであった。


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