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しばらくのお別れと、仕事の内容



 ボールドと事務員に、エルヴィオラはあらためて礼をした。


「どうか、アイビーをよろしくお願いいたします」


「ええ。責任を持ってお預かりさせていただきます。とはいえ、何かあれば連絡をしますので」


「はい。アイビー、頑張ってね。でも、もし何かあったら先生たちに言うのよ」


「はい、お姉様。よろしくお願いします、ボールズ校長先生」


 アイビーは最後にエルヴィオラにぎゅっと抱きつくと、にっこり微笑んだ。

 大神殿の敷地内や神官学校、学校寮を案内するという事務員と一緒にアイビーが退室するのを見送ってから、ジェレイズに促されてエルヴィオラも立ち上がった。


 アイビーに抱きつかれた感触がまだ残っている気がする。

 後ろ髪を引かれる思いでボールズに礼をして、神殿の敷地から外に出ると、エルヴィオラは大きく息を吐き出した。


「エルちゃん、大丈夫?」


「はい、大丈夫です。アイビーが頑張るのですから、私も暗い顔はしていられません。ジェレイズさん、大金を支払って頂いてありがとうございました。必ず、働いてお返ししますので……! このご恩は一生忘れません!」


「ま、待って、エルちゃん。こう人目のあるところで、頭をさげられると……すごく悪い高利貸しになった気分だよ。ざわざわしてるから、皆……!」


「あっ、ごめんなさい!」


 確かにジェレイズの言うとおり、礼拝に並ぶ人々がエルヴィオラたちに不審な、そして心配そうな視線を向けている。

 ジェレイズはエルヴィオラの背を押して、そそくさと大神殿前から立ち去った。


 傭兵団本拠地への道を歩きながら、ジェレイズは苦笑する。


「危うく、可憐な女性に金を貸して身売りさせる極悪人の噂が立つところだっだ」


「ごめんなさい、大きな声で、私……」


「エルちゃんの気持ちはわかってるから、心配しないで」


「ありがとうございます」


「それに、一年間で百万ゴールドでしょう? 基本的には、エルちゃんたち傭兵の給金はこなした依頼で左右されるんだよ。傭兵団としては、依頼を受けるときに前金を貰う。この前金が、傭兵団の運用費として使用されるんだ」


「はい」


「あとの報酬は、全額依頼をこなした傭兵の懐に入る。戦争などへの派兵よりは、魔物討伐やら地下ダンジョン、遺跡なんかの調査、それから危険地帯での採集依頼のほうが割がいいね。大体、底値でも報酬として五万ゴールドは貰える」


「そんなに!?」


 五万ゴールドとは、庶民が一ヶ月働いても稼げるか稼げないかという額だ。

 一つの依頼でそれだけ貰えるのなら、十分金を返すことができる。


「エルちゃん、だからね、焦らなくていいよ。一年間で百万なんだから、一ヶ月だいたい八万ゴールド。エルちゃんのこなした依頼の報酬から僕がひいておくから、心配しないで」


「で、でも、お金を借りた場合は、利息が」


「そんなものはないよ。しいていうのなら、働いて貰うのが利息かな。傭兵とは、危険な仕事だからね。僕やマリさんは、エルちゃんに危険な仕事をして欲しいって頼んでいるんだ。酷いといえば、酷いよね」


「そんなことありません。私にとって、マリアさんやジェイさんは命の恩人のようなものです。精一杯頑張ります」


「もっと、肩の力を抜いて。大丈夫、一人で依頼に向かわせたりしない。ハルもザイードも、レヴィアスも、それから昨日はいなかったけれど、ユーグリヒトも強いから、安心して。基本的には三人か、二人一組で依頼をこなして貰っているんだ。何かあったときに、一人では助けを呼ぶこともできないからね」


 ハルマディルクは、美しい顔をした優しげな男性である。

 レヴィアスは、体格がよく精悍な顔立ちをしているが、なんせ怠そうな印象が強い。

 ザイードは、どっしりと落ち着いている穏やかな男性という感じがした。

 ユーグリヒトという男性は、まだ知らない。


 傭兵団に所属しているのだから、もちろん皆強いのだろう。


「足でまといにならないように、気をつけますね」


「エルちゃんは、長女だよねぇ」


「はい」


「長女ってすごくしっかりしていると、勝手に思っているんだけど……アイビーと一緒にいる君はすごくしっかりしているという感じがしたなぁ」


「そう見えていたら、嬉しいです」


 何か含みのある話し方で、ジェレイズは言う。

 傭兵団本拠地の扉を開くと、そこには、入り口すぐの事務所のソファに横になっているマリアテレーズと、椅子に座って足を組んで、ついでに腕を組んで目を閉じているレヴィアスの姿があった。


「ハルと、ザイードと、それからシフォニアはああ見えて結構真面目でね。ハルは一人で依頼をこなすことがあるから、今日は一人。ザイードとシフォニアは基本的に二人で仕事をしているんだよ」


「そうなのですね」


「以前はね、回復魔法が使える魔導師の子がいたんだけど、やめちゃって……やめるまではハルやユーリと組んでいたんだ」


 ユーリとは、ユーグリヒトという男性のことだろう。

 エルヴィオラは口を挟まずに、頷いた。

 以前いた回復魔法を使える魔導師は、どうして辞めてしまったのだろうと思いながら。


「ユーグリヒトはちょっと気難しいから、エルちゃんと組ませるのは可哀想だし、ハルは心配性で世話焼きだから、エルちゃんに何にもさせないで全部依頼を自分ですませて、エルちゃんにお金だけ渡しそうだし……」


「そ、それは困ります。私も働きます」


「うん。だからね、マリさんと相談したんだけど」


 そこまでジェレイズが言うと、寝ていたように見えたマリアテレーズがのっそりと起きあがった。

 欠伸をひとつすると、軽く頭を振る。

 首が、こきこきと鳴る音が聞こえた。


「エルちゃんにはね、レヴィちゃんと組んで貰おうって思ってるのよ」


 マリアテレーズが未だに眠っているレヴィアスを指さして、魅力的な笑みを浮かべた。


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