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神官学校への入学



 翌日、エルヴィオラとアイビーは、ジェレイズに連れられて神官学校へ向かった。


 神官学校に行く前に、朝の商店街のカフェで、ジェレイズは朝食をご馳走してくれた。


 まだ早朝ともいえる時間帯だが、多くの店が開いている。

 カフェで朝食をとる者も多く、通りに面したテラス席はエルヴィオラたちの注文が届くころには全て埋まっていた。


「王都は賑やかでしょう? 皆、朝が早くてね。特にカフェや食堂なんかは、朝食を食べにくる客のために早くから開いてる。安価だし美味しいからね」


「ご馳走になってしまって、すみません」


 恐縮するエルヴィオラに、ジェレイズはにっこり微笑んだ。

 長い足を組んで、コーヒーのカップに口をつける姿が絵になっている。

 生真面目で冷たそうな印象のジェレイズだが、口を開くと愛嬌のある好青年に変わる。


「いいんだよ。僕は年上で、職場の先輩で、しかも男だから。傭兵団というのは、男世帯だからね。マリさんとシフォニアは女性だけれど。久々に、女性の後輩ができて皆喜んでる。アイビーも可愛いし」


 ジェレイズおすすめのミルクティーを飲んで、オレンジスコーンを頬張る。

 ほんのりとした甘さと爽やかな酸味が口に広がった。

 アイビーもエルヴィオラの隣で、オレンジスコーンを小動物のようにさくさく食べている。


「それよりも、マリさんが一緒にこなくてすまないね。マリさんは大雑把だから、傭兵団の細々したことは、資金管理も含めて僕が担当していてね」


「ジェレイズさんの」


「ジェイでいいよ」


「……ジェイさんのお手を煩わせてしまい、申し訳ないです」


「気にしないで。それが僕の仕事だしね。ハルも朝から一緒に行くと言ってそわそわしていたけれど、仕事があるからね。アイビー、見送りが僕だけになってしまって悪いね」


「ありがとうございます、ジェイさん。家族は、今までお姉様だけでした。でも、傭兵団の皆さんは、優しいですね」


 お礼を言うアイビーをジェレイズは微笑ましそうに眺める。


「ありがとう。マリさんが認めた者しかうちにはいないから、割と皆穏やかかな。あの人はよく人間を拾ってくるんだけど、ザイードやシフォニア、レヴィアスも、行き場所がないところをマリさんが拾ってきたんだよ」


「マリアさんには、本当に感謝しています」


「マリさんがいるから、皆、マリアテレーズ傭兵団で働いているんだと思うよ」


 それにしても――ザイードたちやシフォニア、レヴィアスもマリアテレーズに拾われた、とは。

 皆、明るくて、行き場を失ってしまった過去があるようには見えなかった。

 けれど、誰もが色々な事情を抱えているのだろう。

 エルヴィオラはそんなことを考えながら、ミルクティーを飲み干した。

 朝食をすませて、ジェレイズは店員の女性に金を払った。

 それから、神官学校まで歩いて向かった。


 傭兵団の本拠地から、大通りを抜けて、遠くからでもその尖った屋根を見ることのできる背の高い大聖堂に向かう。

 神官学校は大聖堂の横にある。

 大聖堂には多くの神官たちが働いていて、その神官たちのうち教職の免許を持っている物が、神官学校で教師をしている。


 大聖堂の白い門は人々に開かれており、まだ朝も早いのに礼拝に向かう人々の行列ができている。

 敷地の中には神官学校と、寮もある。神官学校に通う生徒たちは基本的には寮ぐらしである。


「これから大変だと思う。寮での生活は厳しいよ、アイビー。朝も早いし、掃除や洗濯などの基本的な生活は、自分たちで行わなくてはいけないからね」


「大丈夫です。いつもお姉様のお手伝いをしていました。掃除や洗濯は、得意です」


 広い敷地を神官学校に向かい歩きながら、ジェレイズが言う。

 アイビーは両手を握りしめると、力強い声で言った。


「貴族とは思えないね、二人とも。それだけ苦労してきたのだろうね。さぁ、行こうか」


 学校の中に入り受付で事情を説明すると、すぐに校長室へと通してくれる。

 革張りのソファに座り、神官服を着た事務員から説明を受けながら、エルヴィオラは書類にサインをした。

 サインを書き終わると、事務員の隣に座っている年嵩の貫禄のある男性が口を開いた。


「はじめまして。校長のボールズです。クリーク伯爵家の、アイビー・クリークさんの入学の書類、確かに受け取りました。諸費用を払って頂いた日から入寮となりますが、本日でいいのですか?」


「はい。よろしくお願いします」


「アイビー・クリークです。よろしくお願いします」


 エルヴィオラの後に、アイビーも背筋を真っ直ぐに伸ばしてお辞儀をする。


「寮内や校内で使用するものは基本的には皆、こちらで準備します。全てが平等であることを理念としていますので。家族と会えるのは月に一度の女神の休息日。それ以外は、外にでることはできません」


「はい。大丈夫です」


「アイビーさんは十歳と書いてありますね。しっかりしたお嬢さんだ。エルヴィオラさん、アイビーさんのことは責任を持って神官学校で預からせて頂きます」


 もっと大変な手続きがあるのかと思っていたが、あっさりしたものだった。

 ジェレイズが指定された金額を支払う。

 諸経費は基本的には一年ごと。

 一年間で百万ゴールドほどである。


 驚くほどに高価――というほどでもない。確かに値段は高いが、住む場所や衣食住の生活費を全て含めると、どちらかといえば良心的な値段ではある。

 エルヴィオラにとっては、手が届かない値段ではあるのだが。


 鞄から袋を取り出して、百万ゴールド分の金貨を支払ってくれるジェレイズに、エルヴィオラとアイビーは深々と頭をさげた。



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