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早めの再会



 マリアテレーズに連れられて、エルヴィオラは再び傭兵団駐屯所の一階へと向かった。


「エルちゃんとアイちゃんを皆に紹介するわね」


「あの、マリアさん」


「なぁに?」


「私たち、まだ自己紹介などをしていないのですけれど……」


「名前を聞いたわ」


「そうではなく、出自などを……」


「あ、訳あり?」


「それほどではないのですが……私は片田舎の伯爵家の娘でした。ですが、家が燃えてしまいまして」


「それは大変だったわね。家はね、燃えるわよね。時々燃えるわね」


 階段を降りながら、マリアテレーズが頷く。

 それから「でも二人とも無事でよかったわ」と明るい声で言った。


「ん? ということは、エルちゃんたちは貴族?」


「もう、家もないので、貴族とは言い難いのですが……私の出自でご迷惑をおかけすることはないかとは思いますが、一応伝えておこうかと思いまして」


「うん、わかったわ」


 一階に降りると、ジェイと獣人たち以外にも人が増えている。

 ジェイと話をしているのは綺麗な顔をした男で、カウンターの前の椅子にはもう一人、気怠げな男が長い足を組んで座っている。


「皆、聞いて! 今日から新しく傭兵団に入ってくれることになった、エルちゃんと妹のアイちゃんよ! 二人とも貴族だけれど、訳あって仕事を探していたところを私が口説いたわ。エルちゃんは回復魔法がとっても得意なのよ、待望の回復魔導士だわ!」


 マリアテレーズが大声を張り上げるので、エルヴィオラは恐縮しながら軽く会釈をして、アイビーもペコリとお辞儀をした。


「あ! 馬車で会ったお嬢さん……!」


「ハルマディルク様……!」


 美しい顔の男が驚きの声をあげて、エルヴィオラも目を丸くした。


 そういえば、ハルマディルクは傭兵団に所属していると言っていた。

 南地区の傭兵駐屯所にいると。

 聞いていたはずなのに、マリアテレーズとハルマディルクが頭の中でうまくつながらなかったのだ。

 というよりも、色々ありすぎて失念していたというほうが正しいかもしれない。


 元々エルヴィオラが南地区に向かうことにしたのは、エルヴィオラに何かあった時にハルマディルクにアイビーを任せるためだった。

 馬車で話をした程度の仲だが、エルヴィオラには王都に他に頼れる人がいないのだ。


 それなのに忘れていたなんて、もうしわけない気持ちになる。


「あら、知り合い?」


 マリアテレーズが首を傾げる。


「乗合馬車で一緒だったんだ。少し話をして……」


「さては、ナンパ? ハルはすみに置けないにゃ」


 猫耳のフードを被った赤毛の少女がにやにやしながら言う。

 不思議な語尾の少女である。

 両手をわきわきさせているところも、どことなく猫を彷彿とさせる。


「違う。レヴィアスも一緒だったんだ。同僚の見ている前でナンパなどしない。というか、ナンパなどしない」


「ナンパとはなんですか、お姉様?」


「船が遭難することよ」


 アイビーに問われて、エルヴィオラは答える。

 アイビーはエルヴィオラの手を引っ張ると「嘘ですね」と、少し拗ねた口調で言った。


「ハルにナンパされたの、エルちゃん?」


「親切に話しかけていただいたきました。困ったことがあれば頼るようにといわれて、とてもありがたかったです。あぁ、でも、ハルマディルク様を頼ろうと思ってここにいるわけではなくて……!」


「ハルでいいよ、エルヴィオラ。私も、エルと呼ばせてもらおうかな。君は回復魔法が使えるのだね」


「はい。すこし、ですが」


「少しじゃないわよ。二十人の怪我を一度に治せるぐらいの、回復魔法の才能の持ち主よ。色々あって、エルちゃんが回復魔法を使っているところを見かけて、連れてきたの」


「団長は、野良猫を拾うような感覚で人間を拾ってくるからな」


 頭に獣の耳のある青年が言う。猫耳のフードの少女が「人間も猫も動物だよ」と肩をすくめる。

 今度は、語尾に「にゃ」とはついていなかった。


「エルちゃん、じゃあハルと、レヴィちゃんのことは知ってるのね?」


「ハルマディルク様と、レヴィアス様ですね」


「ハルでいいよ」


「様はいらない。ここが傭兵団だと理解しているのか、お嬢さん」


 腕を組んだまま眠そうに目を閉じているレヴィアスが、片目を開くとエルヴィオラに視線を向ける。

 質問の意図がわかり、エルヴィオラは頷いた。


 レヴィアスは、危険だと言っているのだろう。

 まだ仕事の説明は聞いていないが、傭兵とは、兵士だ。依頼を受けて戦う仕事である。

 つまり、心配してくれているのだ。


「心配してくださってありがとうございます。頑張りますね!」


「そういうことを言っているんじゃないんだが……まぁいいか」


「レヴィアスさんが人の心配をした。年中無休で眠そうなレヴィアスさんが。口をひらけばめんどくさいか、眠いしか言わないレヴィアスさんが……!」


「すごいな、エルヴィオラ。レヴィアスがまともに話しているところを久々に見たぞ」


 猫耳の少女と獣耳の青年が口々に言う。

 レヴィアスは欠伸をすると、もう話は終わりだと言わんばかりに目を閉じてうとうとしはじめた。


「あっ、エルちゃんとアイちゃん! 今日からよろしくにゃー。あたしはシフォニア! 見ての通り、猫の獣人だにゃ」


「俺はザイード。シフォニアの兄で、狼の獣人だ」


「はじめまして、シフォニア様、ザイード様」


「はじめまして!」


「様とか初めて言われたにゃ」


「俺たちは獣人だ。そうかしこまらないでくれ。貴族様に様づけされるなんて、どうしていいやら」


「は、はい。では、シフォニアさん、ザイードさん。これからよろしくお願いします」


「よろしくね」


「あぁ、よろしく」


 マリアテレーズは紹介を終えると「あとは、研究棟に魔道具師がいて、他にも任務中の連中がいるんだけど、そのうち紹介するわね」と言った。


「とりあえず、今日は疲れたでしょう? アイちゃんの神官学校入学の手続きは明日。今日は二人とも、寮でゆっくり休みなさい」


「ありがとうございます、マリアさん」


「ありがとうございます」


「お礼を言われるようなことじゃないわ。働いてもらうんだしね」


「エルヴィオラも、寮に? レヴィアスと、シフォニアたちも寮住まいだ。……私とジェイは違うのだけれど、こうなってくると少し寂しくなってしまうな……」


「いい大人が何を言ってるんだにゃ。エルちゃんに下心があるの、副団ちょ。会ったばっかりなのに?」


「いや、そういうことじゃなくてね」


「仲間はずれのようで寂しいという意味だろう。獣人は群れるが、人も群れる」


「なるほど。兄は頭がいいね。エルちゃん、アイちゃん。寮に行こうか。案内するよー」


 シフォニアが近づいてきて、エルヴィオラの腕に自分の腕を絡めた。

 立ち上がると、その服の後ろ側からは、猫の尻尾がはえている。猫耳のフードの下には本当に猫耳があるのだろう。




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