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12 王都へ出発


「多くを求め過ぎてはいけないとずっと思ってきた。だけど、私は今、分不相応なことを望んでしまっている。リューディア、私は君を愛している。そして、君に愛されたいと望んでいるんだ」


 真剣な眼差しで告白してくれたユリウス。私も自分の気持ちを伝えようと決めた。


「ユリウス、私こそあなたに感謝してもしきれないわ。こんな傷のある私をあなたは尊重し大事にしてくれた。ここへ来てからずっと、私は幸せなの。そしていつのまにか私もあなたを愛していたわ」

「リューディア……」

「ユリウス……」


 彼の顔が近づいてくる。私も彼に近づこうと身体をずらしていき……


「「あっ……!」」


 時すでに遅し。小さなボートはバランスを崩し、ひっくり返ってしまった。


(どうしよう、怖い……!)


 水の中でもがく私の腕をグッと掴み、ユリウスが身体を支えてくれた。水面から顔が出て呼吸ができる。


「落ち着いて。暴れないほうがいい。身体の力を抜けば浮いてくるから」

「ユリウス……」


 彼の言う通りに仰向けになって力を抜くと、ドレスが水にふわりと浮いてきた。


「そのままにしておいて。私が岸まで連れて行くから」


 ユリウスは終始落ち着いている。私を抱えてすいすいと泳ぎ、あっという間に岸にたどり着いた。


「リューディア、大丈夫か?」


 お弁当を食べるために持って来ていた敷き物や膝掛けで私を包んでくれる。


「私は大丈夫、二枚もいらないわ。あなたもずぶ濡れなんだから一枚羽織って」

「私は鍛えているから大丈夫。これぐらいで風邪など引かない。それより君が心配だ。急いで屋敷に帰ろう」


 ユリウスは敷き物ごと私を抱え上げ、馬車の座席に座らせた。そして急いで出発する。

 馬車がスピードを上げていく。行きは気持ちのいい風だと思っていたものが、全身が濡れている今は冷たく感じる。まだ夏には早いのだ。

 屋敷に戻るとヘルガが驚いて出迎えた。


「あらま、今度はお二人ともびしょ濡れで、どうなさったんですか……!」

「ヘルガ、リューディアを風呂に入れてやってくれ。寒そうにしているんだ」

「わかりました、すぐご用意します」



 それからヘルガに世話してもらい、ベッドに入った。


「大丈夫か? リューディア」


 ユリウスが寝室に来て、ベッドサイドの椅子に腰掛けた。


「ええ、大丈夫……ユリウス、あなたは? 寒くなかった?」

「この通り、全然平気だ。それよりも君が心配だ。今日は温かくしてゆっくり休むといい」


 彼は私の手を取り、そっと口づけた。


「私を愛していると言ってくれて、嬉しかった……君の体調が戻ったら、ボートでの続きをしよう」


(それはつまり……キス、のことね?)


 せっかく、いい雰囲気でキスを交わそうとしていたのに、私がうっかり移動したせいでボートが転覆してこんなことになってしまったんだもの。早く体調を治したい。


「ええ、ユリウス……待っていてね」


 ところがそれから三日間、私はガッツリ熱を出してしまった。大風邪を引いてしまったのだ。彼に移してはいけないからずっと部屋にこもっていたが、お話しできないのはとても寂しかった。


(実家では誰とも話なんかしていなかったのにね。私がそこにいないかのように、存在を無視されていた。でもそういうものだと思っていたわ。ここへ来てからはユリウスともたくさんお喋りをするし、彼がいない時はヘルガやミルカ、使用人もみんな気軽に話してくれる。こんなに楽しい暮らしを与えてくれたユリウス。本当にありがとう)



 そしてようやく体調も食欲も戻り、ユリウスとの朝食の席につくことができた。


「リューディア、少し痩せてしまったな……たくさん食べて体力を戻そう」


 彼が心配そうに私の顔を覗き込む。


「大丈夫よ、気力は充分なの。モリモリ食べてすぐに元通りになるから安心して」


 笑顔で答えると、ユリウスもホッとしたように笑った。


「あ、そうだ、リューディア。君が伏せっている間に国王陛下からパーティーの招待状が来たんだ。陛下の誕生日のお祝いだ。二週間後なんだが、私一人で行ってくるから。その間、君と離れているのが寂しいけど」


 結婚する時の条件で、私は王都の社交界には顔を出さないと決めていた。この顔を晒して噂話のネタにされるのが嫌だったのだ。

 でも。ここに来てから顔の傷のことを忘れる日々がずっと続いていた。もちろん鏡を見れば思い出すけれど、それだけ。もう私の中では、この傷は私の一部になっていた。

 それならば、私が社交界から逃げている必要はないのではないか。堂々と、私たちが仲の良い夫婦であることを見せつけてやろうという気持ちも湧いてきた。


「ユリウス、私も一緒に行くわ」


 そう言うとユリウスは驚いた顔をした。


「いいのか? リューディア」

「ええ。あなたさえ良ければ、私をあなたの妻としてお披露目して欲しいの」

「リューディア……」


 ユリウスは感極まった様子で私を見つめた。そして嬉しそうに笑顔を見せる。


「そうと決まれば、準備が忙しいぞ! 君に相応しいドレスや靴、宝石を用意しよう」

「そんな、ユリウス。今あるもので充分よ」


 実家からはなんの嫁入り支度もされなかった私だが、ここには普段着や夜会用ドレスが何着も用意されていて、それだけでも嬉しかったのだ。


「いや、陛下主催のパーティーとなると格式が一段と上がる。王都のドレスメイカーで作ったほうがいいだろう。ミルカ、すぐに手配してくれ」

「承知しました!」


 ミルカがすぐに部屋を出て行く。ヘルガもキリッとした顔であとに続いた。


「リューディア、明日にでも王都のタウンハウスに出発しよう。向こうでパーティーの準備をする。君を初めて夜会に連れて行くんだ、最高の支度をしたい」


(なんだか、おおごとになってしまったわ。二週間後のパーティーなのに明日出発なんて……?)


 そして翌日、私とユリウス、別の馬車にはヘルガとミルカ、それに侍女が二人乗って、王都へ向けて出発したのだった。







 

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