第八話:2人目の少女
マリのデッキは、初心者用の弱いデッキと有名な構築済みデッキかもしれない。
その事実を、なんとか前向きに捉えて、2人目と合流するべく走り出した。
走り出してすぐに、マリが限界を迎えた。
少し前まで、ゴブリンから走って逃げていたので、仕方ないといえば仕方ない。
代わりに、もう1枚の『土のゴーレム』を引いたので、2体目のゴーレムにマリを抱えてもらって移動を再開。
先頭のゴーレムと、両脇の『一般兵』、『志願兵』、後方のゴーレムとで、魔物が現れても足を止めずに移動できたのは大きい。
特に、進行方向から木の矢を射つゴブリンが出てきたが、木の矢は鉄の鎧に跳ね返されて、問題なく倒すことができた。
ここらでまた、気になることがあるが……。
いや、後にしよう。マリとのやり取りで時間を食ってしまった。
「マリ、『魔法の地図』はどうだ? 青い光点は近づいているか?」
疲労で動けなくなったことで、ひたすら恐縮していたマリだが、『魔法の地図』を見てナビゲートしてくれる人がいた方が助かると説得し、以降は地図の確認と周囲の警戒をしてもらっている。
おかげで、特に警戒することなく走り続けることができた。
「はい。少しずつですけど、確実に近づいてます。……あ、ずっと先にある青い光点の2つが、すぐ近くで寄り添ってます。合流したのかな?」
「そうだね。たぶん合流したんだろう。離れたようなら、すぐに知らせて」
「分かりました。赤い光点が進行方向右側から3つです」
「分かった。警戒体制。『一般兵』『志願兵』、対処しろ」
味方だからか、マリが召喚した2体も、俺の命令を聞いてくれるのが助かるところ。
せっかくなので、気になることが解消されることを期待するか。
3体のゴブリンに対して、『一般兵』と『志願兵』では、数で負けている。
能力も、全て1/1だろう。
……で、2対3の戦闘の結果は?
ゴブリン共は1匹ずつ飛びかかってくるので、『一般兵』と『志願兵』は協力して一撃で倒していく。
武器を持つ兵たちと、武器を持たないゴブリン。
カードとしては同じ数字でも、現実は明確な差があるようだった。
「マリ、周囲の状況は?」
「青い光点が、1km圏内です。……あ、赤い光点が、青い光点を取り囲むように……」
ある程度近づいたからか、より詳しく分かるようになったようだ。
しかし、息を整える余裕も無いらしい。
「急ごう」
LPは20あるので、最大20回ダメージを防げるだろう。
しかし、多勢に囲まれたらあっという間にLPもなくなり、カードデッキを使えなくなるだろう。
その、後は?
「無事でいてくれよ」
祈るような気持ちで、先を急ぐ。
※※※
あまりの光景に、目を疑った。
マリと同じセーラー服姿の少女が、折れた木の枝をハンカチで右手に巻き付け、長い髪を翻し、4体のゴブリンの攻撃をたった1人でやり過ごしていた。
「た、助けなきゃ……」
マリの言葉で我に返り、指示を飛ばす。
「ゴーレム1号、兵たち、行け! マリ、あの子に『鉄の剣』を」
「はいっ! 『麗華ちゃん』に、『鉄の剣』を『装備』です! 麗華ちゃん! 受け取って!」
二人でわざと大声を出して、ゴブリンの注意を引く。
その隙に、麗華と呼ばれた少女は、ゴブリン共を木の枝で打ち据え、突き飛ばし、蹴り飛ばし、振り向きながら木の枝を薙ぎ払う。
舞うような連撃に見惚れそうになるが、俺自身もカードで援護できるよう気を引き締める。
……ただ、その必要はなかったようだ。
少女と、『鉄の鎧』を装備した『土のゴーレム』、『一般兵』、『志願兵』が、それぞれ1体ずつゴブリンを仕留めたから。
「麗華ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう茉莉花。……で、あなたは誰ですか? 茉莉花をどうするつもりですか?」
安心したような優しい目をマリに向けてから、剣呑な目と左手に装備した剣を俺に向けてくる。
少女の敵意に反応してか、ゴーレムたちも臨戦態勢をとる。
よもや、一触即発か。
場の緊張感が高まり、マリが唾を飲み込む音が聞こえた。
……と、いっても、向けられる鉄の剣の切っ先は、俺にもマリにも向いてない。微妙に逸れていた。それとも、そういう構えなのかな?
敵意といっても、いきなり異世界に身一つで放り出され、人ではない化け物に何度か襲われた後なのだろう。まだ警戒を解いてはいけないと思っている程度かなと。
なんとなくだけれど、そんな感じかなと思った。
「剣を納めてくれないか? きみと戦う理由は特に無いし、右手が痛そうだ。手当てした方がいいと思う」
俺に言われて、少女は今気づいた。とばかりに右手を見て、顔をしかめた。
木の枝を強く掴みすぎたのか、手と枝を固定してあるハンカチに、血がにじんでいた。
※今回得たカード
・モンスター
・・角ウサギ×2
・・モモンガ×1
・・ゴブリン×8
・・森ゴブリン×1
・・飛びかかるゴブリン×2
・・襲撃ゴブリン×2
・・ゴブリンの射手×1