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第二話:手始めに

 子供を(かば)ったことで車に()かれ即死したというダイスケ。


 遊戯神ダイスを名乗る子供の姿の自称神のお願いで、新たに創造された世界へ行き、神の代理人として無理やり異世界に召喚された少女たちと協力して侵略者たる中級神の眷属と戦うという話を聞いた。


 ……その結果、ダイスとゲームすることになった。



「ねーねー、ダイスケくん。きみ、得意なゲームあるでしょう? ボクの要請に応じてここ次元の狭間(はざま)に来る条件が、『得意といえるゲームを一つ以上持っていること』だからさ」


「あるにはあるが……」


 急にそんなこと言われてもな。ゲームって、物がないとプレイできないのが多いからなぁ……。


「大丈夫。きみが念じれば現れるから。ここはそういう特別な場所」


「ふーん?」


 念じれば、というので、念じてみる。


 大学入学を機に引っ越ししたときから住んでいる自宅アパートを。


 自身がほどほどに熱中していたカードゲーム『Wise(ワイズ)&Wizards(ウィザーズ)

 通称ウィズのことを。


 ウィズに触れてからの10年で、少しずつ買い集めていったコレクションと、何度も作っては改良していった火属性デッキのことを。


 炎や雷や大地の力をもって攻撃する、火力中心の速攻デッキを。


 ……気がつけば、燃え盛る炎のようなオーラが右手に宿り、そこに、なにかがある! と確信して右手を握りしめれば、手の中に、炎の紋章が刻まれた赤いカードケースが出現していた。


「おおー。なかなかカッコいいよダイスケくん。きみは、炎に、火属性に適正があるんだね」


 大きな目を見開き手を叩くダイス。その顔は、心底驚いているようだった。


「へー。これがダイスケくんの部屋かぁ。ねーダイスケくん。きみが部屋でそのゲームするとき、どこでするの?」


 気がつけば、周囲の景色が自宅アパートの自室と同じようになっていた。


 壁際のベッドと収納。

 折り畳み式のテーブルと座椅子(ざいす)

 座椅子のそばのミニ冷蔵庫。

 カードファイルと予備のデッキとカードケースが詰め込まれている本棚。


 狭いながら、俺の城。


 そのままだった。


「ここに座って、テーブルでな。これ、デッキが複数あれば一人でもプレイできるから」


「へー……。よいしょっ」


 なぜか、ダイスは俺のひざの上に乗って、体を俺に預けてきた。

 ……なあ、自称女神さま? 俺の体は座椅子じゃないんだが?


「んー……。座り心地はまあまあだね」


 そうかい。それは誉めてるのかい?


「あったかくていい感じだけどね」


 そうかい。そりゃどうも。ほんとに、見た目相応の子供なんだな。


「ほらほら、いたいけなボクに、ゲームを教えて?」


 ……まあ、見た目どおりの子供に教えるようにやればいいか。






※※※




 ……で、10分後。


「はい、ボクの勝ちー♪」


 さすが遊戯神。1度ルールを教えただけで、あっという間にものにして見せたようだ。

 驚きはしたが、同時に納得もした。

 なにしろ、神懸かったタイミングで最適なカードを引いて、手痛い一撃を加えてくるのだ。

 ルールを理解した上で、ゲームの展開を予測し開始前のデッキシャッフルで()()()()きたか、神としての力を使ったイカサマか、単純に運がいいか。


 なんにせよ、公式大会に参加してそこそこいい成績を得たこともあるからこそ生まれたちっぽけなプライドは、容易く打ち砕かれた。




 ……これが、神の力か?




 遊戯神としての力の片鱗を見た気がする。


「さて、まだやるかい? ニンゲン?」


 急に威厳あるしゃべり方してもなー。


 ミニ冷蔵庫から炭酸飲料を取り出して、キャップを開けてから「飲んでみな」と手渡すと、


「ふわっ!? シュワシュワしてるっ!? なのにお酒じゃないのっ!?」


 俺のひざの上で炭酸飲料をくぴくぴ飲んではびっくりしている幼女の頭を撫でてやると、子猫のように目を細めていた。






※※※




「うーん、名残惜しいけれど、そろそろ異世界に行って、ゲームに参加してもらいたいなぁ。どう? 引き受けてくれる?」


 引き受けることは、やぶさかではないのだが……。


「確認させてくれ。俺が引き受けないと、参加を強制させられた者たちはどうなる? きみは、ダイスはどうなる?」


「ダイスケくんと同じ世界から召喚された少女たちは、六人。下級神と同じ数だよ。そのうちの一人は、召喚妨害を受けて次元の狭間(はざま)に放り出されてロスト。上級神の誰かが拾ってるかもしれないけどね」


 改めて聞いても、不愉快な話だ。

 巻き込まれた少女たちが不憫(ふびん)で仕方がない。


「で、他の五人は待機状態。ダイスケくん待ちだよ。だけどね、魔物が出てくる森の中に加護なしで放り出されることになるわけだから、このままだと無事では済まないね。だから、ボクがダイスケくんにあげる加護と同じものを他の子たちももらえることになってる。頑張って交渉したんだよ?」


 それは、グッジョブだな。

 だがそれだと、他の下級神は何をやってたのかって話だよな。


「この『神のゲーム』には、いくつかシナリオがあってさ。その一つが、『神の代理人として召喚された異世界の少女たちが、現地の魔物どもになす(すべ)なく蹂躙(じゅうりん)されてゲームオーバー。下級神たちも、相手の中級神に蹂躙される』ってやつ。胸糞だよね。しかも、一方的すぎてつまらない」


 ワンサイドゲームなら、爽快じゃないとつまらないよな。


「そのシナリオ、ぶっ壊してやりたくない?」


 真剣な表情から一転。いたずらっ子のような顔になるダイス。

 差し出された小さな手を、しっかりと握りしめた。


「そうなったなら、最高だろうな」


「だよねっ!」


 二人同時に手を離して、ハイタッチ。


「頼んだよ、ダイスケくん。向こうにいったらすぐに加護を確認してね?」


「分かった。じゃあ、行ってくる」


 大きくうなずけば、


「いってらっしゃい。元気でね」


 小さな神は、寂しげに手を振るのだった。


※属性


 ・火、水、木の三種と、光、闇、無の三種の計六属性。


 ・火は、木に強く、水に弱い。

 ・水は、火に強く、木に弱い。

 ・木は、水に強く、火に弱い。

 ・光は、火、水、木にやや強く、闇と相互に弱点。

 ・闇は、火、水、木にやや強く、光と相互に弱点。

 ・無は、光と闇の影響を受けにくく、火、水、木にやや弱い。


 (注)カードゲーム内ではそのように説明されているが、実際はデッキの内容によって相性など異なる。

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