第十九話:集結
制限時間があるというダイスに言われて『セーフハウス』を起動。
広く充実した設備にマリとレイは喜ぶが、ダイスケはまだ合流できていない少女たちのことが気になっている。
『もしもーし。遠慮しないで入ってきなよー』
備え付けの受話器に向かってそういうダイス。
何のことかと思えば……?
「森の中に引き戸が1枚って、どう考えてもおかしいんですけどってうわぁ何これ?」
「あら~、なかなか素敵なおうちね~♪」
テンション高めな声と、おっとりゆっくりな声が聞こえてきた。
「…………お邪魔します…………?」
その後には、遠慮がちな小さな声が。
『ほらほら、こっちこっち。おいで~♪』
腰まで届く長い髪の発育のいい少女と、肩くらいまでの髪を片側で括っているスレンダーな少女と、長い髪をツインテールにしている小柄な少女の3人が三者三様にリビングまで着いたところで、ダイスが手を叩く。
『はーい、全員揃ったね。じゃあ、色々説明するよー』
「森園生徒会長っ!?」
「御影先輩っ!?」
(おそらく)年長の2人とは知り合いのようでレイとマリが声を上げていた。
「あら、麗華ちゃん?」
「ありゃ? マリちゃんも?」
女三人寄れば姦しいということわざがあるくらいで、一斉に何かを言おうとした気配を感じたので、
「まずは、自己紹介をしないか?」
先手を打たせてもらった。
※※※
「まずは、私からでいいかしら~?」
全員がリビングのテーブルに着いて飲み物を配り終えたところで、まずは髪の長いメガネの少女が切り出した。
「森園 美虎 。森園女学院3年で生徒会長をやっています。よろしくね~」
優雅で綺麗で、なかなか立派なものをお持ちのようだ。
一礼しただけで長い髪とワガママなそこが揺れた。
……あまり見ないようにしよう。
「気が付いたら森の中で、少し歩いたらそちらの茜ちゃんと会えたから、なんとか無事に過ごせたわ~」
のんびりとした調子に、気が抜けそうなくらいの癒しのオーラを感じるな……。
「ちなみに、実家では虎を飼ってるの~。大きくて怖いかもしれないけれど、可愛いのよ~。小さい頃は、背中に乗せてもらったわ~」
……あ、名前の虎って……。
「次はあたしでいいかな。御影 茜、ミトラと同じ学園の3年で副会長してるよ。ミトラとは幼馴染みでもあるんだ」
アカネは元気溌剌といった性格のようで、弾むように話すのが特徴的に思えた。
「気が付いたら森の中なのはミトラと同じなんだけど、ステータスって叫んだらホントになんか出たのはビックリしたね!」
……もしかして、おれと同類かな?
「アイアムニンジャ!? 調子にのって、印を組んで『火遁の術』ってやったらホントに火炎放射したときはビビったね! 森が焼けなくて良かったよ!」
…………この子、同類じゃねーわ。むしろ、目を離すとヤバい感じかな……。
「瑞月 麗華。先輩方と同じ学園の1年です。一応先輩方とは、小さい頃から顔見知り程度ではありました」
最初こそ警戒してたけど、礼儀正しいし好感が持てるよな。
「刀剣の収集が趣味です。実家から、一振りでも持ってこれたなら、良かったのですが……」
……いやいや、良くないからね? 銃刀法って知ってるかな? 知ってるよね?
「小野 茉莉花 、同じ学園の1年です。外部組って言われる、高校からの入学です」
有名な中高一貫校で、名前だけなら俺でも知っていたくらいだ。
ほんと、有名な女子高なんだよな……。
……治外法権って言葉が出てくるくらい。
「料理は得意なので、任せてくださいね。頑張ります」
ぐっと両手を胸の前で握る姿が可愛いと思った。
手伝えるなら手伝おう。……足手まといかも分からんけど。
「……同学園の中等部2年、影島 千鶴」
この子はだいぶ大人しそうだ。年上ばかりで萎縮してなきゃいいんだけど。
「気が付いたら、神殿っぽいところで『おお、勇者よ!』ってハゲのオッサンたちが騒いでた」
……こらこら、待ちなさい。言葉遣いには気を付けようよ。
「ウィズの経験があるから、カードゲームは分かる。でも、このデッキで勇者はない」
あー、目が、なんというか三白眼? みたいな感じで険しくなってる。
後でデッキを見せてもらおう。
「えーと、俺は、穂村 大輔。こっちの遊戯神ダイスに導かれて、自分の意思でここにきた。みんなが持ってるスキルの『カードゲーム』のことはそこそこ知ってるつもりだから、相談してくれたら応えるつもりだ」
よろしく頼むと頭を下げれば、なぜか拍手が。
『ボクがトリを務めるね~。ダイスケくんから紹介のあった、遊戯神ダイスだよ。この姿は、幻影でしかないけどね』
よろしく~♪ と手を振ったので、拍手してみた。……今度は、なぜか俺だけが拍手していた。
『さて、注意事項がいくつか。
・この拠点は、ダイスケくんしか起動できません。
・翌日の午前9時までしか滞在できません。その時間になったら、強制退去です。
・その後昼12時からまた使用可能です。
・食料や水は無制限に供給されます。ただし、この世界の住民相手に売って金銭を得ることは禁止します。
・違反した場合の罰則はありません。供給が止まることもありません。無限の食料と水で経済を破壊することを懸念する声があります。恵まれない相手に対する施しとかなら、ご自由に。ただし、影響を考慮することは忘れないように。
・衣類に関しては、基本的に寝室にあるものを使ってください。申請があれば考慮します。
・この世界の通貨は、スキル『カードゲーム』内で管理することができます。『アイテムボックス』とか、そんな感じの概念はこの世界にあるので、使用は遠慮なく。
・病気や体調不良は考慮します。自室に備え付けられているメモ帳に体調不良など書くと、問診票が送付されます。できるだけ詳しく書くように。
心の具合が悪いときでも、ある程度考慮します。場合によっては、医療スタッフが治療にあたります。
・玄関から外に出た際は、入った時と同じ場所に出ます。早めに合流するように。
こんな感じかなー』
「……ダイス。一気に言われても、全部頭に入らない。それこそ、一覧を送付してくれないか?」
『ん~、そっか。なら、リビングのホワイトボードに表示しておくね。あ、それと、アドレスは交換しておいてね。あとは、お互いよく話し合って……あー、時間切れ。何かあったらメールしといて。それじゃ!』
言い終えると同時に、ダイスは消えてしまった。
年下の女の子ばかりの状況は少し緊張するが、まずは、話し合うとしよう。
それぞれの状況を整理して、情報を交換しあって、カードデッキをスマホみたいに近づけてアドレスを交換して。
そうして過ごしていたら、時計を見たマリが夕食を作ると言うので、手伝おうとしたら、
「ダイスケさんは座っててください♪」
と、なんだか楽しそうに拒否られた。
でも、レイが手伝うって言ったら喜んでたんだよな……。
まあ、俺は、ミトラ、アカネ、チズルと、カードに関して話し合っておくさ。
楽しい美味しい夕食のあとは、風呂に入って明日のために早めに寝ることになった。
みんなでお休みなさいと言い合って、寝室へと分かれていく。
また明日から、この世界を救って、腐敗神側で保護されているもう一人と合流して、元の世界に帰るために。
今日のところは、お休みなさい。