第一話:ダイスケ
「やほー。元気?」
目の前には、10歳くらいの少年……少女?
黒のショートヘアに、ルビーのような赤とサファイアのような青の瞳、いたずらっ子のように口の端が少しだけつり上がっているのが特徴的な子供が目の前にいた。
俺は……?
ここは……?
そして、この子は……?
「おーい、おにーさん。大丈夫?」
周囲を見渡してみると、なにもない。
真っ暗で、なにも見えない。
なのに、子供と、自分の体ははっきりと分かった。
……まったくもって、分からない。
分からないことだらけだけれど、とりあえず目の前のことから片付けるか。
「俺は、穂村 大輔というものだけれど、きみの名前を聞いていいかな? それと、ここがどこなのか教えてくれると助かるな」
「ボクはダイス。遊戯神ダイスだ。崇め奉れ人間よ!」
……そっかー。中二病って、小学生からでも発症するんだなー。
「もー。そこは、『ははー』とか言いながら手を床に着けるところでしょー?」
ダイスくん……ちゃん? は、ほほをぷくーっと膨らませて不機嫌アピールのようだ。実に子供っぽい。
「ははー」
「うむうむ、よきにはからえー」
……Tシャツにスパッツ姿の自称子供神は、鼻が高いとばかりに胸を張っていた。
「さて、茶番に付き合ってくれてありがとう。ボクと似たような外見の子供を庇って車に轢かれた優しいダイスケくん。きみに、お願いがあるんだ」
「車に、轢かれた……?」
「うん。残念だけど、きみは即死。庇った子供は助かったけれどね。で、どうする? ボクのお願い、聞く? 聞かずに転生して人生やり直す?」
「……とりあえず、状況が掴めないから、話が聞きたい。ここがどこで、きみは何者で、俺はどうなる? ……あと、きみ、男の子? 女の子?」
戸惑いつつも、目の前の自称神に問うしか情報は得られなさそうだ。
「お? 一気に聞いてきたね。いいよ、答えてあげる。ここは次元の狭間。ボクは下級神の遊戯神ダイス。性別は女。楽しいことが大好きだけれど、友達や仲間には尽くす方だと自負しているよ。で、きみには、お願いがあるんだ」
ダイスと名乗る少女は、表情をからかうような笑みから真剣なものへ切り替え、一言一言噛み締めるように言ってくる。
「お願いか……。それ、聞いたら、聞かなかったことにできないやつ?」
「うーん、転生して人生やり直すなら、聞いても聞かなくても同じだけど……。ボクとしては、お願い聞いて欲しいな」
「分かった。聞こう。いや、聞かせてくれ」
今、この子の話を真剣に聞かないと後悔する。なぜか、そう確信した。
「そっか、ありがとね。そんな優しいダイスケくんには、ボクからの加護と神っションをあげるね」
……はて? 神っションとな?
……なんだか、早くも後悔しそうな予感。
曰く。
・暇をもて余した神々の戯れにより、中級の神と下級の神たちがその存在を賭けた『神のゲーム』を開催する運びとなった。
・醜い嫌われものの中級神一柱と、六柱の下級神たちとでは、中級神の方が圧倒的に強く、下級神たちはなす術なく蹂躙されることが目に見えていた。
・下級の神たちの中には、ダイスと同期の女神もいて、放ってはおけなかった。ゆえに、遊戯神として、『神のゲーム』に乱入して低い勝率を覆してやることに決めた。
・その『神ゲーム』の内容は、『代理戦争』。この、『神のゲーム』のためだけに創造された世界を巡って、守る側と侵略する側に分かれて勝敗を決する。というもの。
・公平なゲームとするために、自身の眷属か写し身となるアバターかを選び、ゲーム世界に送り込む。
・他の下級神たちは、あまりの展開に呆然としているところを、上級の神々にあれこれ勝手に決められてしまい、異世界から神の代理人となる少女たちを召喚して……というより、勝手に召喚されてしまった。加護を与えることもできずに。しかもその召喚、相手側の中級神から妨害を受け、少女の内の一人がロストしてしまった。
・ダイスとしては、乱入したにも関わらず直接手を出せない状況のため、代理人に目一杯加護を与えてから送り出すことに決めた。
「そんなわけで、遊戯神としてのボクからの神っション! ボクと、ゲームしよう?」
……こうして、神のミッション、略して神っションに振り回されることが決定したのだった。
『Wise&Wizards』
通称ウィズ。
海外発の、世界規模で流行しているカードゲーム。
プレイヤーは魔法使いとなり、属性エネルギーを利用して、様々な魔法を行使して相手のLPをゼロにすると勝利というシンプルなルールだが、各カードの能力が千差万別なため、実際は複雑で戦略的なゲームとなっている。