プロローグ1
ちょいとリハビリがてら書いてみました。
「勇者ハルキよ。汝には北の魔……辺境領を与える。かの地はいかなる国の領土にも属さない未開拓地ゆえ、我が国の法の適用範囲外である。そのため一切の税、援助は行わないが、これを開墾して領土とした暁には汝が国土とすることを認める。今後は隣国としてより良き関係が築けるよう、汝の未来に幸多からんことを切に願う」
国王の言い分を要約すれば、箸にも棒にも引っかからないド田舎――どころか『無能なお前を人跡未踏の魔境に放逐するので好きにしろ。国は一切の責任も関係も断つんでせいぜい頑張れよ』という最後通牒であった。
まあ、この世界に《勇者召喚》もしくは《集団召喚》という名の拉致監禁をされて一年あまり。
戦闘にも生産にも役立たない、一度として発動しない『スキル』を持っているだけの、なおかつ反抗的な――俺的にはぶっちゃけ他国に拉致されて、無理やり独裁者を信奉させられ、使い捨ての兵士として前線に立たせられるも同然なので、これっぽっちも同意できないし迎合する気も皆無である――人間など、百害あって一利なしというところなのだろう。
(ま、密かに始末させられなかっただけましか)
反論などできるはずがない。
無言で頭を下げて床に敷いてある絨毯の模様を眺めながら、漠然と事の発端から考えを巡らせる俺。
一年前の四月。
リモート授業が主流になった現在の高校生活とはいえ、入学式くらいは全員出席で……ということで、新一年生は全員が体育館に勢ぞろいしたところで、いきなり床が光ったかと思うと次の瞬間、秒で異世界の神聖ナバロ教国とやらに、俺たち新一年生は右も左もわからないうちに拐わかされ今に至る……というわけであった。
何らかのフィルタリングがされていたらしい。体育館には教師やPTA会長など、ある程度の頭数の大人たちもいたはずだが、それらについてはひとりもついてこないで、十五歳の少年少女だけ三百人あまりが召喚されたわけで、いろいろと頭が痛くなる話である。
つーか、新一年生が集団で消滅したとなれば、親御さんたちは発狂しているだろうし、学校関係者も責任を追及されて、下手したら高校自体潰れているんではないだろうか?
幸い(?)俺の両親は俺が赤ん坊のころに事故で亡くなり、あまりソリの合わない叔父夫婦に育てられ、高校進学を契機にひとり暮らしを始めたわけなので、さほど現世に未練はないが(叔父夫婦としては俺が成人になるまで手が出せなかった親父たちの遺産や事故の保険金など、俺が死亡扱いになれば大手を振って使えるようになるので、今頃家族揃って「♪ちゃんちゃーん、ちゃららら、ちゃんちゃんちゃららら♪」とカンカン踊りを踊っていることだろう)。
まあ俺みたいなのは例外で、ナイーブな生徒はとんでもない事態に錯乱する者、ホームシックから自殺する者などが、最初の一カ月で多発したものである。
その後は少人数に隔離されてこの世界の言葉や常識などを教え込まされ――洗脳とも言う――どうにか落ち着いたのが三か月後であった。
そうして一応は落ち着いたところで、『鑑定の儀式』とやらが実施され、俺たちの持っている《能力》とやらが判別され、ヒヨコの選別みたいに鑑定結果に応じてまたまた別な班に組み分けされた。
なお、この世界では百人にふたりか三人の割合で、先天的に持っている《特別能力》と、努力によって後天的に得られる《普及能力》があり、異世界から召喚された人間はほぼ百パーセント《特別能力》を持っているとのことであった。
まあ実際、ごろごろいたよ【勇者】とか【聖女】とか【賢者】とか【剣聖】とかが。
でもって、俺の《特別能力》は【わらしべ長者】。なんだこれ……?
いや、昔話の『わらしべ長者』は知っているけど、スキルってのはどーいう意味なんだ???
その後、いろいろと検証を行ったが(藁をもらってきてアブみたいな虫をくくりつけたり)、まーーーったく、何の音さたもなし。
半年以上かけて国が出した結論は、『使い物にならないクズスキル』というものであった。
そういうわけで冒頭の追放劇へと至るというわけである。
幸いにして始末されることはなかったものの、適当なおためごかしを並べての島流しであった。
間接的な死刑だな、こりゃ。
とは思ったものの、書類上は名目を付けられての開拓・開墾・建国である。
字面だけ聞けば大躍進だが、こうした理由はおそらく、小説などでの集団召喚ものにありがちな、『能力のない奴はヒエラルキーが下なのさ!』と言って、公然と味方を背中から撃つような非常識な同窓生(まあ、中学以前からの顔見知り以外は、ほぼ初対面の連中ばかりだが)が幸いなことにいなかった(いたとしても口に出さない程度の良識は持っていた)ことに起因していると思われる。
仮にも自由と平等を標榜する法治国家に生まれ育って、なおかつこの世界の人間とは微妙に顔立ちも違う疎外感もあり、また日本人らしい連帯感に加えて、同じ境遇の仲間意識が強かったために、万が一にも『無能だから始末した』とバレたら最後、これまでの三カ月間かけて飴を与えて培われた信頼関係にひびが入る……と懸念した上層部が妥協した結果、この措置に至ったのだろう。
「必要な物資と資金を与える。こちらについてくるように!」
話は終わったとばかり鼻くそをほじっている国王に代わって、文官らしい三十前後のお役人が俺に立つように促して、さっさと背中を向けた。
拝謁の姿勢から立ち上がった俺は、どうせ二度と顔を見ることはないだろうソッポを向いている国王に向かって、せめてもの意趣返しで中指を立て、無言で謁見室をあとにするのだった。