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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

バレンタイン戦線

作者: TARO

この物語は、多くの団体名・組織名・個人名が登場しますが、全てフィクションです。

実在する団体・組織・個人とは全く関係がありませんので、ご了承の上読み進めてください。


ハーメルンにも同時投稿します。

2月13日 23:55――。


都会から少し離れた小さな街の住宅街。

「アポステート・ワン。配置につきました」

黒装束で全身を覆った男―つまり、俺が報告をする。

「アポステート・ワン、報告了解。作戦時刻まで待機せよ」

「了解」


通信機を切り、雑居ビルの屋上に潜む。

「今年もこれが始まったな」

重々しい声が、私的回線から伝わってくる。

「嫌になっちゃいますよね。毎年毎年。どうにかならないんでしょうか」

今度はおとなしめの声。少年の声だ。

「あーあー、なんで俺たちこんなに頑張ってるんだちくしょうめ」

「アポステート・ツー、スリー、フォー、私語は慎め。そろそろ始まるぞ」

「了解」

「了解しました」

「はーいはい」


俺が言うと、三人は静かになった。

腕時計を確認する。もうすぐだ。


「各自、任務を覚えているな」

俺が確認すると、ツーが答える。

「我とスリーが端末の起動、動作完了まではワンが我々の護衛兼遊撃する。作戦時間は1時間だ」

「で、オレが本部や他地区との連絡役ってことな」

「他の班の人たちが、別地区で邀撃しているあいだに何とかしたいですよね」

スリーも答える。

「既に共有したと思うが、13日前から開始された情報部と潜入部による作戦の完了率はおおよそ40%程度だ。例年に比べればマシなほうだ」

「4割、か」

「マシとは言いつつも60%もあったら今年も激闘ですね……」

「もうちっと働いてほしいもんだぜ」



私語は慎め、とは言ったものの、3人の言いたいことも分かる。

「そろそろ時刻だ」

俺がそう伝えた瞬間、通信機が震えた。


2月14日 0:00――。

「本部より全体通達。2021-2-14T0:00+09:00、全ヴァレンティヌズ像の起動を確認。各員は作戦行動を開始せよ」

「北了解」

「東北了解」

「関東了解」

「中部了解」

「近畿了解」

「中国了解」

「四国了解」

「九州了解」


通信機から、各地方ブロックの返答が流れてくる。全体チャネルはもう切り替えてもいいだろう。

「関東各班、全体通達のとおり作戦を開始せよ。第1波が来るぞ」

『了解』


長い1日が始まった。


「ツーおよびスリーは準備を開始しろ」

「「了解」」

「通信チャネルの操作権限をフォーに委譲する。ユーハブコントロール」

「こちらフォー、権限移譲確認。アイハブ」


「っと、こちらフォー、観測班より連絡。第1波発動を感知した。急行し事態の収拾に当たれ」

「了解」

早いものだ。

毎年のことながら、気合の入れようには恐れ入る。

ビルの屋上から見下ろすと、確かにこの時間に歩行している不審な女性がいる。

「こちらワン、目視した。急行する。カモフラージュパターン:警官を使用する」

そうして俺は、ビルから飛び降りた。



難なく地上に着地すると、さっき目視した女性の目の前だった。

女性はどこか震えているような様子だった。

「すみません、戒厳令下の外出はやめていただきたいのですが……」

「ウウウ……ワタさないト……ウアー!」

まあこうなるわな。

「震えていた女性はどこかカタコトのように喋りながら、右腕を振り上げて襲い掛かってくる。

「最初に警告する意味ってあるのかね、っと!」

女性の攻撃を躱しつつ、様子を見る。

振り上げていないほうの左腕に、トートバッグがある。

目的物だ。

「目的物を発見した。回収に入る」

返答を待たずして通信を切る。

襲い掛かってくる女性の目には理性が見られない。

これなら対処は然程難しくはない。

「失礼ッ」

相手の攻撃を躱しつつ、掌底打ちで気絶させると同時に、トートバッグを確保する。

素早く中身を確認すると、出てきたのは黒色の物体。どこか甘い香りがする。

「こちらワン。ブラックチョコレートを確保した。対象は昏倒している」

「こちらフォー。確保了解。復旧班と回収班を向かわせるから、到着まで待っててくれよ」

「了解した。現地にて待機……2人目らしき人物を確認した。接触する」


通信していた俺の視界に、また人影が見えた。

1人目の女性よりも幼い、学生服らしきものを着ている。

「学生かッ。クソ、こんな時間に出てきやがって」

つい愚痴が零れてしまう。

学生が第1波で現れることは稀だ。大抵の場合、学生は第2波からが本番だからだ。


「君、学生さんかな?戒厳令が出ているんだ。家に帰りなさい」

俺が声をかけると、ビクっと震えた様子でこちらを向く。

「わ、わかってます。で、でも、一番に渡したくて……」

「学生さんがこんな遅い時間に出歩いているのは危ない。家は近所かな?」

頷く学生。

「じゃあ送っていこう。少し待っていてくれるかな」

「はい……」

素直な学生を尻目に、通信する。

「2人目確保。ガス使用を申請」

「フォー了解っと。以降の睡眠ガス兵器使用を許可する。期限は2021-2-15T0:00+09:00までだ」

返答を聞き終える前に、偶々後ろを向いていた彼女にガスを噴霧する。

「な、なにを……」

崩れ落ちる彼女を抱えると、1人目の元へ向かう。



1人目の元に戻ると、4名の隊員がいた。俺が近づくと敬礼をしたため、こちらも答礼する。

「復旧班2名、回収班2名到着しました。対象はこちらの……?」

俺は頷いた。

「1名の女性は錯乱状態だったため戦闘により気絶、もう1名は理性あり、同意に基づき催眠ガスを吸入している。併せて対象物も確保済みだ」

学生の方は未だ開けていなかった。その場で開封すると、可愛く包装された包みの中に典型的なハート型のチョコレートを確認した。

回収班の男たちも、最初のブラックチョコレートとハート型チョコレートを確認し、持っていた機材を翳す。

彼らの機材から、ブザーが鳴る。予想通りだ。

「対象物2点はいずれも法令に適合しない物品と確認。これを押収し、研究所に収容します」

「復旧班は、対象の女性2名を保護、それぞれの自宅に送迎します」

「対象の引き渡し完了。復旧班は記憶処理を忘れずに実施してくれ。俺は任務に戻る」


「「了解、ご武運を」」

「そちらもな」


回収班、復旧班はそれぞれの任務を果たしに別れた。

「ツー、スリー、端末の状況はどうなっている?」


「設定は完了しています。後は指定時刻を待つだけです」

スリーからの返答がくる。予定通りに行けばもうすぐだ。


時計を見る。指定時刻である2時まで残り5分となっていた。



2月14日 1:55――。

「関東各班、指定時刻02:00まで残り5分となった。”ルペルカーリアの祝福”の状況を確認せよ」


「俺達のところも準備完了だな?」

「完了している」

「完了してます」


その他の班からも、関東支部に対して準備完了の報告が送られている。

「どうやら第1波は何とかなりそうだな……」

「やーっとかよ。ったく……これが続くのは勘弁してほしいぜ」


2月14日 2:00――。

「指定時刻02:00。”ルペルカーリアの祝福”を起動せよ」


本部の通信をモニタリングしていると、予定時刻になった。

「ルペルカーリアの祝福、起動します!」

スリーの声とともに、夜空にピンク色の光線が上っていく。

一定の高度まで達したその光線は、地表に向かってドーム型に覆うような形で降り注いだ。

そのドームはとても大きく、夜空がピンク一色に変わるほどだった。


「”ルペルカーリアの祝福”、全地域動作確認完了。第1波の終結と見做し、作戦行動を終了し各隊に帰投せよ」

本部からの通信を4人で聴いた後、スリーがその場にへたりこんだ。

「はぁ~~~、終わりましたね……」

「やれやれだぜ、早く帰ろうぜ」

「うむ」

「そうだな。アポステート、帰投する」

「「「了解」」」





バレンタインデー。

毎年2月14日に行われるこのイベントは、大切な人に贈り物をする日として、世界的に有名な日である。

日本においても同様で、気になる相手、家族や恋人に対してチョコレートを贈る日として知られている。


しかし、それは以前までのバレンタインデーである。

2XXX年。突如として、世界各地に聖ヴァレンティヌズ像が建立された。

聖ヴァレンティヌズはバレンタインデーの名前の由来とされている司祭であるが、突然各地に建立された原因はわかっていない。

この像、普段はただの像だが、各タイムゾーンにおける2/14の0時に突如発光する現象が確認された。

確認されている発光の影響は「チョコレートを渡すための思考暴走」である。

これにより、何としてもチョコレートを渡す、という執念に取り込まれた被害者たちが暴走する現象が確認されている。


また、像の建立とタイミングを同じくして、バレンタインチョコレートに様々なものが混入される事件が発生した。

本来検出しえない「タンパク質」や「体組織の一部」、「興奮剤に似た薬剤」が混入され、これを食べた人々が体調不良を訴えた。

この時の影響をは広範囲に及び、政府により「バレンタイン法」が施行された。


バレンタイン法で定めているのは、バレンタインチョコレートの成分を定め、これに基づかないチョコレートは製造禁止、とするもの、

バレンタインデーとされる時期においては、戒厳令を施行し、学生等を除いての外出を認めないものとする、等がある。



なお、聖ヴァレンティヌズ像はいかなる手段を用いても破壊することが出来なかったが、技術開発によって発光の影響を低減する端末を開発した。それが”ルペルカーリアの祝福”と称されるものである。


バレンタイン法の裏でひそかに組織された、特殊部隊にその端末は委ねられ、毎年2月14日は彼らが大忙しとなる1日なのである。





2月14日 5:30――。


「諸君、良く集まってくれた」

都内某所、”組織”関東支部の会議室に、数名の隊員が集まっていた。

集まった隊員たちは、いずれも多種多様な学生服を着用しており、いずれも学生と言って差し支えない。

会議室前側の壇上に立つ男―関東支部長が、隊員たちに向けて話す。

「もう間もなく、第2波が到来する。”ルペルカーリアの祝福”の効果が減衰すると同時に、不活性化していた対象が再活性化される」

隊員たちは一様に頷く。

「諸君ら潜入班には、例年特にその影響が大きいと見られる指定されたいくつかの学校に潜入し、接触を阻止してもらいたい。

詳細は新見君から説明する」

「はっ」

呼ばれた俺は、支部長に代わって壇上に立ち、スクリーンを操作する。

「これから君たちに潜入してもらうのは都立第一高校、都立第三小学校、都立第七中学校だ。対象校は現在起動中の”ルペルカーリアの祝福”群の位置から離れている上に、聖ヴァレンティヌズ像にほど近い場所に立地しているため、影響が大きいと判断された」

隊員の中から声が上がる。

「我々は、いわゆる高校生の年齢でありますが、小学校や中学校にはどのようにカバーするのでしょうか」

「各校には既に文科省から通達がされており、教育委員が臨時で授業参観をするというストーリーになっている。入校許可証は既に発行済のため、該当者には後で渡す」

「であれば、小中学校に配置される隊員は制服でなくて良いのではないでしょうか」

「教育委員により、各学校の制服の着心地の調査も行うということになっている。これは決定事項だ」

「・・・・・・承知しました」

隊員同士で顔を見合わせる。戸惑いを隠せない様子だが、それは気にしていられない。

「俺は第一高校の教師として一年前からカバーに入っているため、今回はそこから指揮を執ることになる。各校に配属された隊員は、現地協力者と連携を取り作戦に臨んでもらいたい。協力者リストは後程配布するため、記憶して焼却しろ」

そこまで言い切ると、支部長と目を合わせる。支部長が頷いた。

「第2波を乗り越えるためには諸君らの働きが不可欠である。健闘を祈る」

「「「「了解」」」」



配置先、協力者リストを受け取った隊員たちがグループに分かれ、解散した。

第一高校の隊長はそのまま俺がやることになる。

俺の元に変装用メイクをされた隊員たちが集まってくる。

「全員そろっているな。現地まで車両で移動する。付いてこい」


ゾロゾロと支部地下に降りると、バンが待っていた。俺の愛車だ。

「後部に乗り込め。配席は予め配布してある。指定位置に座れ。全員の着席が完了したら、足元のボックスを開いて中身を確認しろ」

全員が乗り込んだのを確認し、車を発進させる。第一高校までは30分程度の距離だ。

俺は車を走らせながら、後ろの様子を確認する。

「あの~~~、この中身って」

隊員の中でも一際ガタイの良いヤツが声を上げた。スグルだ。

「ボックスの中に、一枚紙が入っているはずだ。それが今回俺達がカバーする相手の情報だ。カバー対象は、校内でも非モテ属に分類されており、バレンタインデーの日は登校拒否することになっている。だから1日成り代わることが出来る。その上、クラスメイトからも比較的遠目に見られているため、不用意な接触をされる危険性も少ない」

「なるほど。鎮圧方法はガスですか?」

別の隊員が聞いてくる。

「学校でも使用可能な装備をいくつかボックスに入れている。ガスは影響範囲が大きくなる懸念があるから今回は麻酔針を使用することになる」

「了解です」

質問は終わったようで、隊員たちは各自に配布された装備を確認している。

「基本的に俺は授業時間以外は社会科準備室に待機している。他の教職員から怪しまれない程度であれば直接接触も可能だ。何かトラブルがあれば、即座に共有するように」

「「「「了解」」」」


そうこうしている間に、今日の現場である都立第一高校が見えてきた。

「どうか無事に終わりますように……」

願わくば何も起こらないことを。いや、本当に。



2月14日 6:30――。

俺は隊員たちを連れて、校長先生の元へ向かう。予め話は済ませてある。

「校長先生、新見です。よろしいでしょうか」

中から了承の返事が聞こえたのを確認し、扉を開ける。

俺の後ろから隊員たちがついてくる。

隊員たちを見た校長先生は、驚きを隠せない様子だった。

最後の隊員が扉を閉めたところで、説明する。

「右にいる6名が、本日の作戦の為に校内に入ることになります。作戦終了時間は完全下校となる18:00を予定しています」

校長先生が顎をさすりながら言う。髭剃りミスったのか?

「新見先生から予め聞かされてはいたが、本当にそっくりですね……」

「恐縮です」

変装のクオリティに驚かれていたようだ。

「作戦の内容については概要ですが聞いています。学校側としては、チョコレートの受け渡しは校則違反となるため、積極的に行う生徒は少ないと考えています。しかし、何分思春期の若者たちですから、隠し持っている可能性は十分にあります」

俺は頷く。当然だろう。自分が高校生の時も、熱に浮かされたようにチョコレートを隠し持ってきた女子生徒は居た。

「新見先生は確か、風紀委員と共に朝の荷物検査に立ち会われるんでしたな」

「はい、その予定です。風紀委員長の佐々木には先日の委員会の時に伝えています」

「わかりました。校内で今回の作戦を知っているのは、私と養護教諭だけです。ですので、もし何かありましたらどちらかに連絡をもらえれば。勿論、可能な範囲で、ですが……」

気を遣われているようだ。校長としては校内のすべてを把握したい所なのだろうが、そこはある程度制限をかけさせてもらう。

「校長先生、ご協力ありがとうございます。何かあれば連絡させていただきます。彼らはそのままクラスに直行しますが、よろしいですか?」

「ええ、皆さんが変装している生徒たちはいずれも普段登校するのが早い子たちばかりなので、違和感はないと思います」

「わかりました」

そう返して俺は隊員たちのほうに向く。

「各員はカバー対象のクラスに向かい待機。挙動を怪しまれないように注意して作戦を行うこと。作戦開始の合図は無いため、ある程度自主判断に基づき任務を遂行するように」

「「「「了解」」」」




2月14日 7:20――。

ひとり、端末を確認していると、”ルペルカーリアの祝福”効果が減衰し始めている様子が映っていた。

「おはようございます、新見先生」

「……おはよう山崎さん、どうした?今日の荷物検査は佐々木君が担当すると聞いていたが」

社会科準備室にいた俺の所にやってきたのは3年2組の山崎絵梨奈だった。

「佐々木君は、今日体調不良みたいで。朝連絡を貰ったので、荷物検査は私が代理で出ることにしました」

「そうか。よろしく頼む。もう時間か?」

「はい。ほかの風紀委員は正門前に集まって、準備をしてくれています」

「わかった。俺もすぐ行く」

よろしくお願いします、と言い去っていく彼女を尻目に、俺は困惑していた。

「まさか山崎副委員長が代理とは。昨日の佐々木は元気そうだったんだがな……」

山崎絵梨奈は品行方正かつ眉目秀麗な女子生徒だ。既に特別枠で東京大学への合格も果たしており、校内でも大人気の生徒である。

「様子は普通のようだったし、影響は受けていないのか……?」

気になることはあったが、とりあえず荷物検査に行かなければ。


正門に向かうと、既に生徒たちの列が出来始めていた。

机を準備している風紀委員の生徒たちに挨拶をしつつ、様子を確認する。

「あ~~~今日荷物検査だったかー!」

「マジかよサイアクじゃん」

悲喜こもごも、というか悲鳴しか聞こえてないような気もするが、勿論抜き打ちではない。

数を確保させることが目的ではないからだ。予め伝えておくことで、チョコレートを持ってこさせない、というのが本来の使命である。

とはいえ。

「山崎さん、ちょっと時間早いけど始めようか。余り生徒たちが溜まりすぎると近所の人達に迷惑になるからね」

「そうですね。みんな普段こんな早くないと思ったんですけど意外でした」


そういいつつ、山崎さんは他の風紀委員に声をかけて準備状況を確認している。



2月14日 7:30――。

「遅くなりました! これから荷物検査を始めます! 2列に並んで、順番に机の上で鞄を開けて風紀委員に確認してもらってください」

山崎さんの号令と共に、荷物検査が始まった。

組織としてはチョコレートを発見・回収することが目的だが、荷物検査としてはそれ以外の学校に持ち込んではいけない不要物を回収することも目的である。

「あ! マンガは持ち込み禁止です!放課後まで風紀委員で預かります」

「えー!勘弁してくれよーなぁー」

「ダメです」

なので、当然校則でNGになっている他の物品も回収されていく。

「あっ」

山崎さんが声を上げた。

「どうした? これは……」

山崎さんがチェックしていたのは、1年生文芸部の女子生徒の鞄だった。

そして見つかったのは、チョコレートだった。

「中川さん。気持ちはわかるけど、校則違反なの。放課後まで預からせてもらってもいいかしら」

「……はい。すみません」

落ち込んだ生徒を山崎さんが慰めている。

「中川さん。社会科準備室にある冷蔵庫に保管しておくよ。そうすれば、ちゃんと保管できるでしょ」

「先生……」

俯いていた生徒が顔を上げる。どうやら多少のフォローにはなったらしい。

「ありがとうございます。新見先生」

「大したことじゃないよ。山崎さん、他の人達にも同じようにチョコレートを見つけたらうちで預かるって伝えてもらえるかな」

「はい!」


検査が終わるまでに、25個のチョコレートが回収された。

「新見先生、それではチョコレートをよろしくお願いします。生徒たちの名前はこの紙に控えているので、放課後に取りに来た生徒に渡してもらえますか」

「了解。荷物検査お疲れ様」

「先生も朝からありがとうございました」

「これも仕事だからね」

山崎さんは会釈をして他の風紀委員たちと校舎に戻っていく。

そう、これも仕事だからな。


生徒全員が校舎に入っていくのを確認して、俺は準備室に戻る。

「今日の授業は2時間目と3時間目か」


2月14日 9:00――。

学校内は1時間目の授業が始まっている。

俺以外の社会科教師は皆授業の時間で、出払っている。


俺は組織から提供されている端末で、連絡を取った。

「こちらHS1。対象物の回収を完了した。復旧班と回収班を要請する。対象物は25個」

「支部了解。復旧班と回収班を出動させます。到着は5分後。ランデブーポイントを指定願います」

「裏門前でお願いします」


預かったチョコレートを持って裏門に行く。

俺が着くとほぼ同時に組織の車が裏門前に停車した。

「こちらHS1。対象物を持ってきた」

中から復旧班と回収班の人員が下りてくる。今回は25個もあったため、4人ずつ派遣されているらしい。

全員が敬礼をし、俺も答礼する。

「回収班のH1です。対象物を見せていただけますか」

「これだ」

チョコレートを袋から出して回収班に渡す。回収班は手持ちの機材で確認する。

機材が反応すれば回収対象、そうでなければ回収せずそのままだ。

「ビィーーーーー」

機材が鳴動した。

「回収対象発見。指定混成材料以外の使用が確認された。研究所にて詳細分析を行う」

「復旧班了解。代替品を用意するため、検分結果と外装材料を見せてください」


復旧班は、回収対象になってしまったチョコレートをすり替えるのが役目だ。

害のないチョコレートに入れ替えることで、問題なく受け渡しができるようにする。

規定に定められたチョコレートであれば、渡しても問題ないことになっているからだ。


結果、19個のチョコレートが回収対象になってしまった。

「復旧班R2です。代替品は1200にはお渡しできる状態になります」

「了解した。生徒が外を出歩いていない13:40にここで受け渡しを行おう」

「承知しました」


車を見送り、準備室に戻る。

このまま終わってくれればいいんだが。



2時間前に思いついちゃった。

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