甘すぎる登校
シルビアに占ってもらったり、ミランと協力して星型のプレートを集めたり。
……そんなとても楽しかった星集め祭が終われば、夏季休暇――と言いたいところだけれど。
残念ながら、その前にテストがある。この学園は、二学期制であり、年間四回あるテストのうちの、二回目――、つまり、期末テストだ。
「……よし!」
支度を整えて鏡の前で、気合を入れる。まだ、他の生徒たちは、お祭りが終わった後のまだ少し浮足立っているような雰囲気が続いているけれど。
私の目標は、このまま好成績を維持しながら学園を卒業し、将来安泰な就職先に就職すること。
やっぱり、今のところの第一希望は、国内の最高峰の研究機関である天文塔だ。
つまり何が言いたいかというと――この期末テストでも気は抜けない。
だからいつものように、今日も朝から図書室に行って勉強をしよう。改めて、そう決めてから自室を出る。
女子寮の門前には、いつも通り、ルドフィルがいた。
「ごめんなさい、ルドフィル。待たせちゃったかしら?」
敬語や敬称で話すことが癖づいてしまった今では、それらを外すことにまだ少し、緊張する。
……おかしくないかな。うまく、言えてた?
ルドフィルはそんな私を見ると、目を細くして笑った。
「おはよう、ブレンダ」
「おはよう」
ルドフィルは、全然待ってないよ、と首を振ってから――、微笑んだ。
「今日も可愛いね、ブレンダ」
「⁉」
従兄のときのような笑みではなく、一人の男性のような笑みを浮かべて――いや、実際そうなんだけど――手を差し出すルドフィルに思わず体温が上がる。
「る、ルドフィル! からかわないで」
それに、当然のように差し出されたその手は⁉
私が怒ると、ルドフィルは肩をすくめて手を引っ込めたあと、
「可愛いのは本当だよ。この手は、差し出したら、つられて握ってくれるかなと期待して」
なんて言って、笑った。
……最近のルドフィルは以前よりも積極的な気がする。
その後も、ルドフィルは五歩歩くごとに、可愛いね、とか好きだよ、とか砂糖菓子よりもはるかに甘い言葉をはいた。
「……ルドフィル」
「どうしたの?」
私がルドフィルをじとりと睨んでも、ルドフィルはむしろ嬉しそうな顔をした。
「……何か変なものでも食べたの?」
「ううん、特には。朝食べたものと言えば……」
ルドフィルは、鞄の中から白いリボンでラッピングされた包みを取り出した。
「はい、これ」
「?」
ルドフィルから受け取ったその包みをほどくと、甘い香りがした。
「……美味しそう」
思わずごくり、と喉をならす。
「バタークッキーだよ。まずは、ブレンダの胃袋を掴もうと思って、はりきって作ったんだ」
味見もしたから安心してね、とルドフィルは笑った。
「……ありがとう」
ルドフィルの作るクッキーが一番好きな私は、すでに胃袋を掴まれている。
でもそのことを言うのは恥ずかしいので、代わりにクッキーのお礼を言う。
「どういたしまして」
そう言って、さらりと微笑んだルドフィルは、また甘い言葉を囁きだした。
「……ルドフィル」
私は、耳元から砂糖に浸食されておかしくなりそうだからやめて欲しい、と白旗を上げた。
ルドフィルは、じゃあ、今日はここまでね、と微笑んで、囁くのをやめた。
「……今日……は?」
「うん」
「ルドフィル、まさか……」
「うん? 毎朝続けるよ?」
……さすがに、それは。
毎朝は血圧があがりすぎて、体に悪そうだ。
――これは、登校を見直すべきかな。
でも、もうすぐ夏季休暇だものね……。夏季休暇明けは、性格が変わる人もいるっていうし。
……それに期待しよう。
――そう決めて、甘い言葉をやめ、他愛ない話を始めたルドフィルの言葉に耳を傾けた。
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
三章がスタートしました!!これからは、毎週月曜日に更新することを目標に頑張りたいと思います。
また、お読み下さる読者様のおかげで、本作の書籍化が決定いたしました!
本当にありがとうございます。
本日より予約が開始しておりますので、宜しくお願い申し上げます。
以下情報です。
レーベル:TOブックス様
発売日:9月20日(火)
イラスト:nima先生
キャラクター原案:ふじさきやちよ先生
また、TOブックス様のオンラインストアでは、特典SSもつくそうです!
何卒よろしくお願い申し上げます!




