お願い事
その後も、放課後は生徒会室で星集め祭の準備を行った。星集め祭の一週間前から、星集め祭をより楽しんでもらうために、学園中を飾り付ける。その飾りづくりと、どこに何を飾るかの見取図の作成に時間を費やしていた。
そんな日々が続いた、ある日のこと。
いつも通り友人たちと昼食を摂っていると、友人の一人である、キャシーがねぇご存じ? と話し出した。
「星集め祭で優勝したら、なんでも一つお願い事が叶うっていう、噂があるんですって」
恋人同士になる人が多いっていうのは聞いていたけれど、そんな噂があるのは知らなかった。
他の友人たちも聞いたことがないようで、驚いていた。
「なんでも一つ……何にしようかしら」
「私は、地位名声が欲しいわ」
「あら、願いは一つよ、それだと二つになるのでは?」
みんなその話題で持ちきりなまま穏やかに昼休みは過ぎていった。
放課後の生徒会室で飾りを作りながら、シルビアに話しかける。
「――……という噂があるそうなんですが、シルビア様はご存じですか?」
姉のように慕ってほしいと言われたあの日から、シルビアとは急速に親しくなっていた。
「ええ、聞いたことがあるわ」
「そうなんですね」
有名な噂なのかな。
「ブレンダさんなら、何を願うのかしら」
「でも私たちは主催だから、参加はしませんよね?」
だって、プレートをどこに隠したか知っているものね。そう思って、シルビアを見ると、シルビアは首を振った。
「せっかくのイベントだから、一年生は生徒会役員でも参加することになっているの」
その代わり、一年生はプレートを隠す作業には参加しないのだと、続けた。
……そうなのね。ペアはくじだから誰と組むかは当日に決まる。私は、誰と組むのか今から楽しみだな。
「……話を戻すけれど、ブレンダさんならどんな願い事をする?」
「そうですね……」
何にしよう。でも、たった一つ願い事が叶うなら。その願いは決まっている。
「平穏無事にこの学園生活が終わりますように、です」
「……ふふ。欲がないのね」
そうシルビアは笑っていたけれど、そうでもない。学園は、学ぶ場所であるのと同時に共同生活の場所でもある。誰かと一緒にいる以上、衝突することもあるだろう。それが全くない生活が欲しいなんて、強欲だ。
「シルビア様だったら、何をお願いしますか?」
もちろん、シルビアは二年生だから、参加ができないことはわかってる。でも、この美しい人が何を願うのか気になった。
「わたくしは、もう叶ったから、何もないわ」
「もう、叶った?」
ええ、実はね、わたくし、去年一位のペアの一人だったのよ。そう、シルビアは内緒ごとをする時のように、小声で囁いた。
「え――」
それはすごい! じゃあ、あの噂は本当なんだ。
「ちなみに、どんなお願い事が叶ったんですか?」
「それはね、秘密よ」
そう言って、笑う彼女はこれ以上ないほど美しかった。
星集め祭まで、あと一週間になった。
今日の放課後にたくさん飾りを飾る。とっても楽しみだなぁ。そんなことを思いながら。ルドフィルと登校する。
「ねぇ、ルドフィル」
「どうしたの、ブレンダ」
「ルドフィルは、去年一位だったら、何をお願いしたかった?」
ルドフィルは暫く考えた後、微笑んだ。
「僕のしたかったお願い事は、もう叶ったよ」
「ルドフィルも?」
去年一位だったのは、シルビアだったと思うけれど。それとも、一位以外のお願い事も叶うのかな。私が不思議に思っていると、ルドフィルは意外そうな顔をした。
「あれ、彼女――シルビア嬢から聞いていない? 去年は僕と彼女がペアでね、優勝したんだ」
でも、上級生と下級生でペアを組むのでは? シルビアとルドフィルは同学年だ。
「去年は、上級生の数が足りなくて、何組か同学年同士のペアが出来たんだ」
「そうなんだ」
なるほど。それなら、シルビアとルドフィルが組んだのも納得だ。それで、ルドフィルがしたお願い事ってなんだろう。
「ルドフィルのお願い事は、もう叶ったのよね?」
「うん」
ルドフィルは、穏やかな瞳で私を見つめた。
「今も叶ってる。……叶い続けている、が正しいかな」
「ええ!?」
星集め祭の効果が絶大すぎるわ! 私が驚いていると、ルドフィルは微笑んだ。
「……君が、ブレンダがもう感情を殺すことなく、生きられますように」
僕は、そう願ったんだ。そう言ったルドフィルは心底嬉しそうな顔をしていた。
「え――。……私の、ことを。せっかくのお願い事なのに?」
「ブレンダがブレンダらしく生きていてくれたら。これ以上嬉しいことはないよ」




