不等価交換
図書室での勉強はとてもはかどった。
これから毎日、図書室に行くのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、図書室を後にした。
◇ ◇ ◇
午前の授業を終えて、昼休みになった。
昨日のように屋上にいくのもいいけれど、ミランが言っていた特別メニューも気になる。
「……どうしようかな」
教室をでながら考えていると自然と足は食堂のほうへ向いていた。
よし、食堂にしよう。
食堂はルドフィルが言っていた通り、たくさんの人でごったがえしていた。
……これだけ人がいると、特別メニューが食べられるか、不安だ。
「残り10食ですー!」
「!」
食堂のカウンターから、そんな声が聞こえたので慌てて列に並ぶ。
食堂のメニューは多数あるけれど、どのメニューも費用は学園が負担することになっている。
つまり。
無料でお腹一杯ご飯が食べられてしまうのだ!
平民になってからというもの、無料という言葉のありがたみをひしひしと感じている。
……と、そんなことを考えている間に、私の順番がきてしまった。
「特別メニューひとつ」
「はーい」
よかった。まだ、特別メニューは残っていたみたいだった。
私はうきうきで、そのトレーを受けとる。
「特別メニューひとつ下さい」
私の後ろの人も特別メニュー目当てだったようだ。聞き覚えのある声に振り向くと、ジルバルトだった。
「……ごめんなさいね。さっきので、売り切れなのよ」
店員が申し訳なさそうにジルバルトに謝り、ジルバルトはかわりのメニューを注文していたけれど、とてもがっかりした顔をしていた。
「……あの」
「ああ、……あんたか。……なに?」
トレーを受け取ったジルバルトに話しかけると、ジルバルトは最後の特別メニューを受け取ったのが私だと気づいたようで顔をしかめた。
「もしよろしければ、そのメニューを交換しませんか?」
「……はぁ? あわれみのつもり?」
「いえ、憐れんでいるのではなく。ジルバルト様には、今朝クリップをいただいたので」
そもそも、ジルバルトがくれたクリップと、学園が費用を負担するご飯じゃ、等価交換にならないけれど。
「……べつにいいよ。クリップなんて大したものじゃないし」
そういったジルバルトは、けれど、心底羨ましそうに私の特別メニューを見つめている。
「私も鮭のムニエルとどちらにするか、悩んでいたところなので」
「……ふーん、だったら、いいよ」
これは、本当。ジルバルトが選んだ鮭のムニエルもとても美味しそうだったから、少し悩んだ。
ジルバルトとトレーを交換する。
ジルバルトはわずかに、頬を緩めた。
……へぇ。
笑うと、あんな感じなんだな。いつも笑っていればいいのに。なんて、余計なお世話だけれど。
「……あんた」
「はい?」
では、失礼と適当な席に座ろうとすると、ジルバルトに声をかけられた。
「鮭のムニエルと迷ってたんでしょ。だったら、半分こにしよう」