恋する表情
一緒に、でかける?
私はゆっくりと瞬きをした。
「あっ、いや。ブレンダが嫌でなければの話だが」
少しだけ早口で言われた言葉を考える。
嫌か、どうか。
アレクシス殿下のことが好き。アレクシス殿下と少しでも長く一緒にいたい。それに、断って、アレクシス殿下に嫌われたらどうしよう。
そう考える私と、アレクシス殿下と共に過ごすことで、噂が立てられるようなことがあったら平穏無事な学園生活が遠のいてしまう、と考える私がせめぎあっていた。
最終的に出した、結論は。
「……嫌、ではありません」
私の返答を聞くと、アレクシス殿下はほっとした顔をした。
「では、今度の休日。女子寮の門前に迎えに行く」
「……はい」
では、と別れようとして、アレクシス殿下に引き留められた。
「ブレンダ」
「? ……はい」
「楽しみにしている」
――アレクシス殿下は、今まで見たことがないほど穏やかな色を湛えていた。
その表情を見た時の、胸が締め付けられ息を忘れるほどの、この、感情が。
「ブレンダ?」
「――!」
自分でも顔が赤くなっていることが分かるくらい、頬が熱い。その顔を隠したくて、咄嗟に俯いた。でも、顔を覗き込まれ、簡単に目があってしまう。
早く、早く目を逸らさないと。
もう、手遅れだと頭ではわかっているのに。
それでも、まだ認めたくない私は、今度は手で顔を覆――。
「!?」
覆えなかった。両手をがっしりとアレクシス殿下に掴まれてしまい、表情をそのまま直接見せることになってしまう。
「――」
恥ずかしい。逃げたい。
そう、思うのに、どこまでも、柔らかな新緑の瞳に魅入られ動けない。
「……っ」
雑音が、遠ざかる。まるで、世界に私とアレクシス殿下しか、いないみたいに。
アレクシス殿下が、顔を近づけた。
「……ブレンダ、私は――」
その続きは、とても大切な言葉のような気がして、じっとアレクシス殿下を見つめる。
「私は、君が」
「――アレクシス殿下!! 探しましたよ」
私を現実に引き戻したのは、アレクシス殿下の侍従のロイだった。
私たちと同じ年のロイもこの学園に入学していた。確か、入学式前に怪我をしていたからしばらく療養中だったはずだけれど。この様子だと、回復したみたい。
「あ、ああ。……ロイ」
アレクシス殿下は、何とも言えない表情をしていた。ロイはその様子を見て不思議そうに首を傾げ、それから、私に気づいたようだった。
「スコ……、いえ、ブレンダ嬢もご一緒だったのですね」
ロイは、なぜか、とてもうれしそうな顔で私たちを見た。
「僕は、お二人の味方ですよ」
「ありがとう、ございます?」
一体何の味方なのかわからないけれど。とりあえず、お礼をいっておく。
「ええ。アレクシス殿下、僕が戻ったからには――」
なぜか説教をしながら、ロイがアレクシス殿下を連れていく。
今度こそ、私も女子寮に帰ろうとして、振り返った。
「アレクシス殿下、……私も。私も、楽しみにしておりますね」
どうしても、それだけは伝えたくて。
私がそういうと、アレクシス殿下は、心底嬉しそうに笑った。
「ああ、ブレンダ。では、また」




