好きな人
「……?」
何だろう。その紙を裏返すと――。
「!!」
思わず、がばりと顔を上げる。
「ジルバルト様、これは……!」
「うん。『超・特別メニュー』のチケットだよ。ボクとクライヴが「かくれんぼ」は一位だったからね」
これが、幻のメニューを食べられるチケットなんだ。
「一人、二枚ずつもらえるんだ。……だから、それ、あげるよ」
好きな人と食べておいで、そう言ってジルバルトはテラスを離れて――。
「待ってください!」
慌ててジルバルトを引き止めようとしたとき、足を捻ってこけそうになった。
「!!」
あ、まずい。そう思って、ぎゅっと強く目をつぶったけれど、衝撃は一向にやってこない。それを疑問に思ってゆっくりと瞼を開けると、何とも言えない表情をしたジルバルトが私を支えてくれていた。
「ブレンダ、足、大丈夫?」
「はい、少し捻っただけなので……」
この分だと、保健室に行かなくてもしばらく安静にしていたら、治るだろう。
「ジルバルト様、助けて下さってありがとうございます」
「無事ならいいよ。でも……、どうしたの? そんなに慌てて」
ジルバルトに逃げられないように、ぎゅっとジルバルトの制服の裾を握る。
「ジルバルト様が勝ち取ったものを、いただくなんてできません」
「さっきもいったでしょ。お祝いだよ。気にしないで」
でも、以前の食堂で特別メニューを逃しかけたジルバルトは大変残念そうな顔をしていた。だから、本当は食べたいんじゃないかな。
「……気にします」
「ブレンダってさ、意外と頑固なところあるよね」
ジルバルトは、困った声でため息をついた。
「……ボクはブレンダが喜んでくれたら、別に」
「お気持ちは、とても嬉しいです。でも、これはジルバルト様が持つべきです」
「わかったよ」
しぶしぶ受け取ったジルバルトは、ふと思いついたように、私に一枚、チケットを差し出した。
「はい、ブレンダ。これ、あげる」
「でも――」
「ボクが食べないのが気にかかるんでしょ。だったら、ボクと一緒に食べよう。それなら、お祝いにもなるし。……どう?」
確かに。それなら、ジルバルトも超・特別メニューを食べることが出来る。
「はい!」
私が大きく頷くと、ジルバルトはほっとした顔をした。
「じゃあ、今日のお昼休みにね」
◇◇◇
午前の授業は、休憩時間に、超・特別メニューの味を想像していたら、あっという間に時間が過ぎた。
そして、約束通り、食堂では――。
「ブレンダ」
こっちおいで、とジルバルトが手招きをしてくれている方へ、人込みをかき分けて進んだ。その後ジルバルトと合流し、食堂の端へ。
「超・特別メニューはいつもと違う場所から注文するんだ」
そんなことも知っているなんて、流石三年生ね!
思わず尊敬の念を込めた目でジルバルトを見つめると、ジルバルトは照れたように頬をかいた。
「ほら、こっち」
ジルバルトが、すっ、とチケットを差し出すと、優雅な仕草で、職員が受け取った。私もジルバルトを真似して、チケットを差し出す。
「超・特別メニューを承りました。こちらへどうぞ」
職員についていくと、扉を抜けて、広間に出た。
食堂の中にこんなスペースがあったのね。
驚きながら、引かれた椅子に座る。
食事の提供には、少し時間がかかるらしいので、その間、ジルバルトとおしゃべりすることにした。
他愛もない話をしていると、不意に、ジルバルトが尋ねた。
「ブレンダの好きな人ってさ、どんな人?」




