流れて消えた
「かっ、かわ……!?」
「うん、可愛い」
ルドフィルは、まるでそうであることが、当然のように頷いた。
「……そう、でしょうか?」
以前の私と最近の私。果たして何が違うのか。思い当たるならば、そう。
「うん。恋をしたからかな」
その答えをルドフィルに言い当てられて、頬が熱くなる。
「その原因が僕じゃないのは悔しいけれど。でも」
ルドフィルは長い睫をそっと伏せ、それから瞬きした。
「もっと可愛いブレンダを、見られるのは良いことだね。それに、いつかはブレンダに僕が好きって言わせて見せるよ」
まるで、絵本の中にでてくる王子様みたいに、笑う。
「だから、覚悟しててね」
◇◇◇
ルドフィルと別れ、図書室に向かった。
……いつもの席は空いているかな?
今日はいつもより少し遅かったので、どきどきしながら、図書室の扉を開ける。
紙とインクの香りを胸一杯に吸い込んだ。
うん、落ち着く。それで、肝心の席は──。
空いてた!
思わずスキップしそうになりながら、いつものジルバルトの横の席に座る。
「おはようございます」
「……おはよ」
小声でジルバルトに挨拶すると、ジルバルトも挨拶を返してくれた。……そういえば、ジルバルトにも恋をしたことは伝えていない。
アレクシス殿下に恋をしたことは知られてはいけないけれど。
でも、恋をしたことだけは、私の味方だっていってくれたジルバルトには伝えたいな。
そう思いながら、勉強しながら隣のジルバルトをちらりと見ていると、ジルバルトは苦笑した。
「?」
そして、いつもは予鈴のぎりぎりまで勉強しているのに、勉強道具を片付けると私の机の前に立った。
「ほら、ブレンダも片付けて」
「えっ?」
「話、あるんでしょ」
鋭い! って、私が見すぎたからだよね。
ジルバルトに気を遣わせてしまって申し訳なく思いながら、頷いて、私も勉強道具を片付けた。
ジルバルトから提案があり、図書室から出て、テラスに向かう。
テラスは心地よい風が吹き抜けていた。
「それで?」
ジルバルトはテラスに設けられた椅子には腰かけずに、壁によりかかるようにして、首を傾げた。
なので、私も椅子には座らず、立ったままジルバルトに話すことにする。
私はジルバルトの瞳をまっすぐ見つめ、ゆっくりと言った。
「ジルバルト様、私、恋をしました」
ジルバルトは、私の言葉に驚くでもなく、ただ一度だけ目を閉じて、それから頷いた。
「……そっか」
そして、それから目を細めて、何かを呟いた。
「──」
「?」
今、何て言ったんだろう。
風に流されて良く聞こえなかった。
「ジルバルト様?」
「ううん、何でもないよ。……良かったね、ブレンダ」
柔らかい表情でジルバルトは笑うと、二枚の紙を差し出した。
「お祝いに、これ、あげる」




