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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
一章

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番外編 空に釘付け(前編)

その存在を知らない者は貴族社会にはいないだろう、といわれるスコット公爵家の令嬢。欠点があるとすれば、いつも仮面の様に貼り付けて動かない微笑。それ以外は、完璧な淑女だと噂される彼女。ボクは、社交界にあまり出る機会はなかったけれど、ボクですらその存在は知っていた。


 空を映した淡い水色の瞳に、それよりも濃い海のような髪。


 そんな色彩を持つのはこの国では珍しい。厄介な魔眼なんていう、古めかしく珍しい目を持つボクは少しだけ、親近感を覚えていた。


 でも。


「あなたのお気に入りの席だとしても、私のほうが早かったので」

 ――始まりは毅然としたその態度だった。

 まあ、全面的にボクが悪いんだけれども。出会いは最悪だった。


 でも、特待生という座に胡坐をかかず、熱心に勉強している姿はどこか、眩しく見えた。

気まぐれを起こしたのは、だからだろう。

「……あげるから、使ったら」

 平民の間で流行っているという、それ。たまたまポケットに入っていたものを彼女に渡した。髪の留め方を教えてやると、きらきらと輝く瞳でお礼を言う。

 氷姫、なんて呼び名が似合う彼女はどこにもいなかった。


 たまたまその日の食堂で、再び彼女と出会った。特別メニューと交換する、という彼女の申し出を断り、鮭のムニエルと半分こすることにした。そしてボクが見たのは、とても美味しそうに特別メニューを食べる彼女。

 頬を緩ませたその表情は、まるで、つぼみが綻ぶようで。ボクは目を奪われ――もう少し、その表情を見てみたくなった。


 反省を活かして、今度は以前よりも早い時間に図書館を訪れ、席に座って勉強する。

 すると、興味深そうにこちらを見ている視線に気づいた。この特異な容姿から人に見られるのには慣れている。でも、彼女の視線は不思議と嫌な感じがしなかった。


『勉強、しにきたんでしょ』

 そう書いて彼女にノートの切れ端を差し出すと、彼女もその切れ端に何かを書き込んで返した。

『そうですね、集中します。「宵闇に見惚れてしまいました」』

 「宵闇に見惚れてしまいました」の部分は、隣国の古代語であるメリグリシャ語で書かれていた。

「――っ!」

 羞恥で言葉にならない。宵闇の貴公子なんていうふざけたあだ名を知られたことも。メリグリシャ語でのストレートな愛の言葉を綴られたのも――彼女は恐らく気づいていないのだけれど――恥ずかしかった。


 その後、再び食堂で出会った彼女を揶揄って。軽率なことをしないように釘を刺す。彼女はどうやら、自分の言葉にどれほど破壊力があるか、知らないようだったから。


 そうして、ようやく僕らは、自己紹介をした。


 ブレンダ。ずっと存在だけは知っていた彼女に、僕の名前を呼ばれ、また、僕がその名を呼ぶのは、ひどく不思議な気持ちになったことを覚えている。


 その後、ブレンダの調子が悪い日があった。予鈴が鳴れば、いつもはすぐに片づける彼女が、窓を見つめて動こうとしない。ボクが何度か強く体をゆすって、ようやく彼女は夢から覚めたような瞳をした。

 ……まさか。


 一瞬よぎった考えを打ち消す。あれは、相当相性がいい人にしか起こらないはず。だから、そんなことない、はずだ。


 彼女を保健室まで連れて行き、ベッドに横たわらせる。勉強が遅れることを不安がる彼女に、自分が教える、もしくはクライヴに教えてもらえるようにすると言うと、彼女は不思議そうな顔をした。どうして、そこまでするのか。そう言いたげな顔だった。

 確かにそうかも。いつものボクなら、保健室に連れて行って、それで、終わりだ。自分自身も戸惑っていることを気づかれないように、理由を探す。

「かわいい後輩の顔色が悪かったら、心配でしょ」

 後輩。知識としては知っているものの、普段全く使っていない言葉を口に出してみると、意外と、舌によく馴染んだ。

「ありがとうございます……先輩」


 先輩、なんて呼ばれるのも初めてで。でも、悪い気分はしなかった。それどころか、胸がくすぐられるような、そんな気持ちになった。



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― 新着の感想 ―
[一言] アレクシスの暴走を止められるのはジルバルトだけ! 早くブレンダを助けてあげて!
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