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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
一章

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75/150

何を犠牲にしても

ブレンダの言葉に思わず、目を瞬かせる。……ブレンダ・スコットではない。

 そんなこと――知っている。ブレンダはもう貴族じゃない。

「ですので、私は殿下のお気持ちには応えられません」

 ……それならば。

「私も平民になれば――」

「アレクシス殿下」

 困ったように眉を下げ、それでも私から目を逸らさない。空を映したような瞳は、今は、私を私だけを映していた。

 ……嬉しい。

 場違いだとわかっていても、この胸の高鳴りを誤魔化しようがなかった。ブレンダが私を見ている。私が執着した初めて、いや、私の全てが私を見つめていた。


 頬に血が上るのを感じながら、私は言った。

「君は、貴族に戻りたいとは思わないのだろう。だったら、私が平民になる」

 そうすれば、君とずっと一緒にいられる。君とずっと一緒にいられたなら、どんなに幸福だろうか。ずっと一緒にいて。そしていずれ家族になれたなら。


「……アレクシス殿下。五年間、私は殿下の婚約者として過ごしました」

 私の夢想を破ったのは、静かな声だった。

「その五年間、アレクシス殿下のおそばにいて思いました。殿下は、この国の中枢を担うべきお方だと」

「……私は、そんな大層な人間じゃない。だから、ブレンダ」


 君に、私のそばにいて欲しいんだ。


続く言葉に、いいえ、とブレンダは首を振る。

「アレクシス殿下、あなたは努力を続けられるお方です」

「私は兄上じゃない」

「存じております。私が今お話ししているのは、アレクシス殿下、あなたです」

「……努力、か。それでも、兄上には遠く及ばない。兄を立てる弟とよく周囲には言われたが、実際のところ兄に敵わない弟だ」


 私がそう言うと、ブレンダは悲しそうな顔をした。

「アレクシス殿下、あなたはとても優秀で、素敵なお方です。――そのことを殿下の婚約者である間に。もっと早くにそうお伝えするべきでした」

 そして、そうできなかった自分は、私に相応しくないのだと、ブレンダは続けた。

「だったら! 傍にいてくれ。傍にいて、私が私自身を信じられるように、ずっとそう言い続けてくれないか」


 君さえいてくれれば、何もいらないんだ。

 

「それはできません」

「なぜ?」

「私は、今の私が気に入っています。……今の私にとって、私の一番は私なんです。ですから、アレクシス殿下には、もっとアレクシス殿下を優先する方のほうが相応しいと思います」


 ブレンダの言葉を頭の中で反芻する。

 だったら。


「……ブレンダ」

「はい」

 ブレンダは、真っすぐに私を見た。一瞬、ためらいが浮かぶ。もしここでやめたら、私は、君に――。


『いいのか? 目の前で他の男に掻っ攫われても』


 ……そうだな。

 頭の中で響いた声に、躊躇が消える。私は立ち上がると、一度ブレンダの手を離した。そして。

「『ブレンダ、私を抱きしめて』」

「!?」

 ブレンダも立ち上がり、私に抱き着く。

 ――良かった。初めてだったが、ちゃんと効果はあるらしい。

「な、にを――」

「いい子だ、ブレンダ。『私を、見て』」

 ブレンダの見開かれた瞳は、私だけを映している。それにひどく満足しながら、私は囁いた。

「『ブレンダ。……私に、恋をして』」


いつもお読みくださり、ありがとうございます。

この話と次の番外編&エピローグで一章は終わりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 殿下こわい…先輩助けに来て
[一言] アホクシスだめだろそれ、、、
[一言] アホクシス…お前…
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