幸福な気持ち
「……落ち着いた?」
「はい」
泣いてしまったことを気恥ずかしく思いながら、頷く。外はもうすっかり暗くなっていた。
「じゃあ、帰ろうか」
そう言った後、ジルバルトは撫でていた手を止め、最後に頭を一度撫でると、わたしを立ち上がらせてくれた。熱が離れていくのが寂しくて、その手を目で追う。
「……手でも繋ごうか?」
「そ、そんなつもりじゃ!」
慌ててぶんぶんと首を振ると、ジルバルトはふはっ、と吹き出した。
「冗談だよ」
冗談に本気になってしまったわ。
……恥ずかしい。
「ほら、ブレンダ。行こう」
恥ずかしすぎて思わず固まった私に苦笑して、ジルバルトは歩き出した。
慌てて、それに着いていく。
「これでよしっと」
図書室の鍵がしっかりと閉まっているのを確認して、図書室を後にした。
「そういえば」
帰り道、ジルバルトは私に合わせたゆっくりな歩調で歩きながら、尋ねてきた。
「あの画集見てみた?」
「いいえ」
首を振った私にジルバルトは意外そうに瞳を瞬かせ、それから頷いた。
「生徒会の仕事とかで忙しいもんね」
「いえ、そうではなく──」
昼休みに友人たちと見ようとしたけれど、なぜだか一人占めしたい気がしてやめたことを伝える。
「そうなんだ。……ブレンダってさ、とっても可愛いね」
「!? どうしてですか?」
どうして、そこで可愛い、なんて言葉が出てくるの!?
「秘密」
ジルバルトは答えるかわりに、そうひとつ微笑んだ。
◇◇◇
女子寮に戻り、自室で鞄から画集を取り出す。
一ページ、一ページ、ゆっくりと眺めているととても温かい気持ちになった。それは、絵がとても可愛らしい──ということもあったけれど。
ジルバルトが、息抜きに、とお薦めしてくれた気持ちが嬉しかったから。
全てのページを見終わって画集を閉じる。
そして、今日のことを思い出す。
「ジルバルト様が、私の味方……」
初めてだった。男の人にそんなこと、言われたの。
口に出すと、とっても気恥ずかしくて、でも幸福な気持ちになった。
そして、私はその信頼に応え続ける人であろうと思った。
◇◇◇
それから、数日。穏やかな日が過ぎた。
そして──ついに、かくれんぼの日になった。欠席することも考えた。けれど、正式な学校行事らしく単位として認定されるもののようだった。
現在の私の目標は、無事にこの学園を卒業し、良い職業を見つけること。
なので、参加することにした。
「……アレクシス殿下。本日はよろしくお願いします」
「ああ。ブレンダ、共に頑張ろう」




