秘密
私がそう言うと、ようやく二人の言い争いは止まった。二人ともよほど驚いたのか、瞬きをしている。
私自身も、こんなに大きな声を出したのはずいぶんと久しぶりだった。
「……大きな声を出して、ごめんなさい。どちらの案がより適切かは後で伺いますから」
だから、今は仕事に戻って。私がそう言うと、二人は頷いた。
「ごめん。周りが見えていなかった」
「すまなかった」
自分の仕事に戻っていく二人を見て他の生徒会の面々もほっとした顔をして、仕事に戻っていく。
……良かった。
生徒会のその日の仕事が終わった、その後――どちらの方法がより仕事の効率が良くなるか検討した結果、どちらもほとんど変わらないことがわかった。
◇◇◇
――やはり。やはり、恋は、人をおかしくさせるのかしら。
まだ明るい時間に生徒会の仕事が終わったので、そんなことを考えながら図書室に向かう。
「私は――……」
恋を知りたい。決めつけていただけの過去に戻りたくない。でも。
ふと、思う。私がもし誰かに恋に落ちたなら、その人にあげられるものは何だろうと。
今の私に与えられるもの。それは、一生豪遊できるほどの富でも、名声でもない。
――私、ひとり。この心一つだけが、捧げられるものだった。
でもそれは、私のすべてでもある。
何も持たない、私の全て。それを、捧げられる相手。
いつか、出会えるのかしら。あるいは、もう、出会っているのかな。
私が、それに気づいていないだけ――?
「ブレンダ」
「!」
考えに耽っていると突然名前を呼ばれて手を引かれ、驚く。
俯いていた顔を上げる。
「前見て歩かないと危ないよ」
少し呆れたでも、優しい声で注意したのはジルバルトだった。
ジルバルトに言われて、前を見ると、図書室の扉に激突する直前だったことがわかる。
深紅の瞳は、心配そうに私を映していた。
「ありがとうございます」
「うん。さっきから何度も声をかけたのに、気づかないんだから」
ブレンダのことだから、勉強のことでも考えてたんでしょう? そう言って、ジルバルトは、図書室の閉館のプレートを指差す。
「図書室なら、司書さんの都合でさっき閉まったところだよ」
「そうだったんですね」
がっかりだ。頭の中を整理しようと思っていたのに。
ずーん、とショックを受けていると、ジルバルトは笑った。
「どしたの? 悩みがあるなら聞くけど」
そういえば、ジルバルトは恋の経験者だった。『ボクに力をくれるもの』っていってたし。
「実は――、実は」
言葉にしようとして、喉に詰まる。
「ゆっくりでいいよ、っていっても廊下じゃ話しにくいか。……こっちおいで」
ジルバルトは、閉館中のプレートがかかった扉に鍵を差し込んだ。そしてそのまま開けてしまう
「え!?」
「三年間、ほぼ毎日通ってるからね。鍵を貰ったんだ」
でも、他の人には秘密ね。そういって、ジルバルトは指先を形のいい唇に当てた。
「!」
その姿があまりにも様になりすぎていて見惚れていると、ジルバルトは悪戯っぽく笑った。
「さて。可愛い後輩のお悩み相談会、始めよっか」




