あなたにとっての
ルドフィルと穏やかなお昼休みを過ごした後は、再び授業を受けた。
そして、放課後。生徒会室に行こうと教科書を鞄にしまっていると、ミランが私の教室を訪れた。
「ブレンダさん、生徒会室まで一緒に行かない?」
今日は選択の授業もなかったので、昨日ぶりだ。
もちろん、ミランの誘いを断るはずもなく、二人でおしゃべりをしながら生徒会室に向かう。
その途中でふと、ミランが思い出したように言った。
「……私も、髪、切ろうかしら」
「それはもったいないです!」
思ったよりも大きな声がでてしまった。
ミランも驚いて、目を瞬かせている。
「……だってせっかくこんなに艶やかで豊かな黒髪で、この長さだってミラン様にとってもよく似合って──……ミラン様?」
ミランは急にくすくすと笑った。
「いえ、ごめんなさい。あまりにもあなたが必死なものだから。昨日も、素敵だと言ってくれたけれど、とても嬉しいわ。私、あまりこの髪が好きじゃなかったけれど。少し好きになれそう」
どうしてミランはあんなに綺麗な黒髪を──……。
けれど、丁度生徒会室についてしまい、結局私は、ミランにその理由を聞きそびれてしまったのだった。
生徒会での会議を終えて、女子寮にミランと一緒に帰ろうとしたところで、引き留められた。
「……ブレンダ」
「? はい」
アレクシス殿下だ。
アレクシス殿下はやっぱり、何か言いたげな顔をしている。
今朝話しかけられたこととも関係しているのだろうか。
「君の『それ』は……」
それ、はなんだろう。
アレクシス殿下の婚約者として長年過ごしてきたけれど、省略しすぎな言葉は理解できない。
「いや、それだけじゃない。笑ったり、戸惑ったり。本当に君は、ブレンダなのか? 私の知るブレンダは……」
アレクシス殿下がそこで言葉を切って、眉を寄せる。
「私は、ブレンダです」
けれど、本当に私がブレンダなのかと言われたら、私はこう答えるしかない。
私はまぎれもない、私だ。
「……」
アレクシス殿下は私の返答に更に眉を寄せた。
でも、これは苛立っているのではなく、戸惑っているときにアレクシス殿下がする癖だった。
「だったら、なぜ……」
そう言うアレクシス殿下の瞳はなぜか、泣きそうだと思った。
けれど、その翡翠の瞳は一瞬でそらされ、二度と合うことはなかった。
だから、私の勘違いかもしれない。
「いや、なんでもない。……引き留めて、すまなかった」
帰り道をミランと歩く。
ミランとは、昼食について話した。ミランは食堂で食べたらしく、そのメニューの多様さについて、とても嬉しそうに話していた。
「……ねぇ、ブレンダさん」
「はい」
昼食の話題が終わったとき、ミランは言いにくそうに切り出した。
「こんなことを聞くのは不躾だとわかっているけれど。婚約している間、あなたにとってのアレクシス殿下はどんな方だったの?」