圧勝
「……ブレンダは、僕の従妹ですから」
「そうではあるが、ブレンダは私のペアだ」
「……あの」
私が、声をかけると言い合っていた二人は振り向いた。
「それで、どちらと帰るんだ?」
「ブレンダ、一緒に帰ろう」
「……ええと」
──どうして、こうなったのかしら。
◇ ◇ ◇
今日も無事午後の授業も終えて、生徒会室に向かった。それで、久しぶりに生徒会の仕事をしていたのだけれど──。
「ブレンダ、その資料重いでしょう? 僕が持つよ」
「ありがとうござ──」
ルドフィルに資料を渡そうとすると、その前にひょい、と資料は取られてしまった。ルドフィルではなく、アレクシス殿下に。
「アレクシス殿下?」
「気づかなくてすまない。今度から私を頼ってくれ」
相変わらず、とても柔らかな声だった。
友人ではなくなってしまった人には頼りにくいし、そもそもアレクシス殿下に頼るなんて恐れ多い。
そう言いかけた私の言葉を遮ったのは、ルドフィルだった。
「アレクシス殿下、代わりますよ」
「いや、大丈夫だ」
その後も、何度か仕事をルドフィルが手伝おうとしてくれたとき、必ずと言っていい程アレクシス殿下は現れた。
そんな感じで、放課後は過ぎ。
帰りの支度をしていたときだ。
「ブレンダ、一緒に帰らない?」
確かに、今日はもう遅い。いつもなら図書室で勉強しているところだけれど、今日はやめておこうかな。
でも、ルドフィルと一緒に帰るのは……どうだろう。
ただでさえ、朝の甘い言葉攻撃で大変なのに、これ以上攻撃を受けたら間違いなく、寿命が削られてしまう。
私は、長生きで大往生するのも目標の一つだ。だから、出来ればご遠慮した──。
「その必要はない。ブレンダは、私が送っていくから」
そう言って私の手を取ったのは、アレクシス殿下だった。負けじと反対側の手をルドフィルに取られる。
どうすれば、いいのかしら。
──そして、冒頭に至るというわけだった。
私としては、どちらと帰るのも遠慮したい。
「一人で帰りますので、ご心配なさらないでください」
私がそうきっぱり言った。よし、これで、大丈夫、よね?
けれど、ますます二人の手を握る力は、強くなる。
「……あの?」
どういうことだろう。
「そんな危ないこと、許可できるわけないでしょう?」
「学園内だとはいえ、夜道は危ない」
わりと通いなれた道だし、躓いたりすることもないと思う。しかし、二人とも納得しそうにない。……どうしよう。
「あら、では。ブレンダさん、私と帰りません?」
「ミラン様!」
助け船を出してくれたのは、ミランだった。ミランは、柔らかく、女性の手はそんなに強く握るものではないのでは? と指摘もしてくれた。
その言葉に二人とも手を離してくれる。
「だが、女性二人というのは──」
「大丈夫ですよ。クライヴ様も一緒ですから」
「ああ」
振り向くと、苦笑しながら、クライヴが頷いた。すっごく、助かる。助かるんだけれども、私がいては、カップルのお邪魔ではなかろうか。
罪悪感を覚えながらも、
「ミラン様たちと帰ります!」
私がそう言うと、二人はしぶしぶ納得してくれた。
……良かった。
帰り道。邪魔をして申し訳なかった、とミランとクライヴに謝ると二人は謝らないで、と言ってくれた。
や、優しいー!
思わずミランに抱きつくと、クライヴはとっても不満そうな顔をした。なので急いで、離れる。
でも、その優しさにいつまでも甘えてはいけない。今日みたいなことが、明日も起こらないといいんだけどな……。




