注意
アレクシス殿下は、柔和な笑みを浮かべていた。
「はい。……よろしくお願いしますね」
私が戸惑いつつも何とかそう答えたところで、丁度予鈴が鳴った。
ジルバルトはまだ教室まで距離があるので、私に、小声で「なんかあったら、すぐに言いなよ」と言って、走り去ってしまった。
私も、教室に入ろう。
礼をして、教室に入る。
教室に入ると、友人たちが私に笑顔で挨拶をしてくれた。それに応えつつ、席に座ったところで、先生がやってきた。
そして、今週末行われるという「かくれんぼ」についての説明が始まった。
◇◇ ◇
お昼休みの教室内は、かくれんぼの話題で持ちきりだった。結構男女ペアも多いようだ。貴族の子息子女は、この学園内で婚約者を決めることが多いから、こういった催し物ひとつひとつに気が抜けない……とは、友人の一人の談だ。
でも、とその子が付け加えた。
「ブレンダさんは……大変ね」
そう言ってから、はっとしたように口を噤む。
「お気になさらないでください」
大変、なのは確かだ。それよりも、皆が私とアレクシス殿下の関係について、どう思っているのか気になった。私は元婚約者とはいえ、平民で、アレクシス殿下は第二王子だ。身の程知らず、と思われていても仕方ないもの。
そのことについて、尋ねてみる。
「こんなこというのは、失礼ですけれど……お可哀そうに、と思っているわ」
一人の子がそう言うと、皆頷いた。自分から婚約解消を言い出した――アレクシス殿下都合で婚約解消になったのは、周知の事実らしい――のに、今更構われるのは可哀そう、ということだったらしい。
良かった。だから、私は虐められずに済んだんだわ。
「そうね……、それにアレクシス殿下の婚約者の座を今更みんな狙っていないと思うわ」
え? そうなの?
「高嶺の花より、近くの花よ」
……なるほど? そんなものなのかしら。
首を傾げつつ、頷いていると、一人の女子生徒がでも、と続けた。
「二年生の、アリーシャ・ライモンド様ってご存じ?」
確か、ライモンド伯爵家の次女だったような、と貴族名鑑を思い出しながら頷く。
「……彼女には気をつけたほうがいいわ」
「なぜですか?」
「私ダンスパーティで見てしまったのだけれど……アレクシス殿下をダンスに誘って、お断りされていらしたから」
……なるほど。アレクシス殿下を自らダンスに誘うということは、実家のライモンド家か、それとも、彼女自身の望みかどちらかはわからないけれど、アレクシス殿下の婚約者の座に収まりたいと思っている可能性が高い。
「わかりました。ありがとうございます」
その後は、みんなで購買部にパンを買いに行ったりして穏やかな時間を過ごした。




