お誘い
お友達がたくさんできて、気分も明るい翌朝。学年一位を取れたからと言って、気を抜くとこはできないわ。
そう考えなら、支度を整え、女子寮を出ようとして門前に誰かが立っていることに気づいた。
──ルドフィルだ。
「おはよう、ブレンダ」
「……おはようございます」
ルドフィルの表情は溶けそうなほど甘くて、それが私に向けられているという事実が気恥ずかしく、俯いた。
「ブレンダ?」
ルドフィルはそんな私にゆっくりと近づくと、優しく髪に触れた。
「……今日は髪を下ろしているんだね」
その囁き方のほうが、どうしたと聞きたかった。蠱惑的なそんな響きで話すルドフィルなんて知らない。いや、知らなかった。
「ど、して……」
「ん?」
「ど、どうして、そんな……!」
そんなに、甘いの。
続く言葉はぎりぎり聞こえるか、の小さな声だったけれどルドフィルは、しっかりバッチリ聞こえていたらしい。
「それはね──」
「あ、や」
やっぱり聞きたくない。耳を塞ごうとした、私の手を握って、ルドフィルは囁いた。
「ブレンダに、恋をしているから」
あ、ああああ。
甘い。甘すぎる。糖分の過剰摂取で、病気になりそう。
どうしたらいいのか分からずに、うろうろと視線を動かす。それに、手は握られたままだし。
「……ふふ」
ルドフィルは笑うと、手を優しく離した。そして、ルドフィルから先程の甘い空気が消える。
「今日はここまでね」
「今日は、ということは、明日もあるんですか!?」
驚いて思わず大きな声を出した私に、驚くことなくルドフィルは言った。
「うん」
うん!?!?!?!
「これから毎日続けるつもりだよ。ブレンダが、僕に恋に落ちるまで」
それは……。
「……わかりませんよ。私が本当に、恋をできるのか、なんて」
「うん、わかってる。それでも、そうなって欲しいと願うことを君は、赦してくれた」
「……っ」
そうだ。赦しなんて必要ない。
「でも、僕もちょっと張り切りすぎたかな。ごめんね」
「……ちょっと?」
「うん、ちょっと」
昨日のルドフィルも甘かったけど、今日のルドフィルはそれ以上だ。
あれでちょっとなら本気を出したら、どうなるの?
頭に浮かんだ疑問を首を振って追い出す。これ以上考えるのは、私のために良くない。
「そういえば」
学園に向かって歩きだしながら、ルドフィルは言った。
「はい?」
ルドフィルの言葉に首を傾げる。何だろう?
「登校、一緒にしない?」
「?」
今一緒にしているのは、登校じゃないのだろうか。
「ああ、ごめん。そうじゃなくて……これから、毎朝一緒に登校しない?」




