きっかけ
「……え?」
そんなことがあるのかしら。これは……夢?
だって、こんなにも多くの人が私とお友達になりたいだなんて。
頬をつねってみる。痛い。やっぱりこれは現実だわ。
ああ、早く返事をしなくちゃ。
「私で良ければ、もちろん。……喜んで!」
私が満面の笑みで頷くと、女子生徒たちも笑顔を見せてくれた。
「……そういえば」
「?」
キャシーと名乗った女子生徒が──確か伯爵令嬢だったはずだ──キラキラとした瞳で、櫛を取り出した。
「その、もし良かったらなのだけれど……、私に、ブレンダさんの髪を結わせていただけないかしら?」
「私の髪を? それは構いませんが……」
この髪型もわりと気に入ったけれど、他の髪型も試してみたい。そう思って、頷く。
「あっ、ずるいわ、キャシー様。私だって触りたいもの! だって、ブレンダさんは……」
キャシーの隣で頬を膨らませた女子生徒が、言いにくそうに言葉をつまらせたので、微笑んで、続けさせる。
「ずっと、感情を表に出さないからお人形みたいだわって思っていたの。でも……、同時に憧れでもあった。あなたは完璧な淑女だったから」
……憧れ。そうか、以前の私はそんな風に見てもらえていたのね。それは、とても嬉しい。
「でも、今のあなたは、なんと言うか……、とても親しみやすいわ! 赤くなったり、笑ったり、戸惑ったり……。だから私たち、あなたともっと仲良くなりたいの」
嬉しい。だって、それは今の私を肯定してくれる言葉だから。ジルバルトが肯定してくれたときも思ったけれど、肯定は自信に繋がる。
「私も……私もみなさんと仲良くなりたいです」
そう微笑むと、彼女も満足そうに頷いてくれた。
その隣の女子生徒がおずおずと切り出した。
「あなたの髪もずっと気になってたの。私たちの髪って、そこまで短く切ることってないから、髪を切るのってどんな感じなのかしらって」
「とてもすっきりしますよ!」
その後も、女子生徒たちとの会話を楽しんで──時には髪型を変えたりして──お昼休憩は穏やかに、過ぎた。
◇ ◇ ◇
午後の授業も無事終わり、今日は生徒会の仕事もお休みなので、何をしよう。
そう思って、そういえば、まだ自分の目で貼り出された成績を確認していなかったことに気づく。
学校の重要な情報が集まる掲示板の前まで行くと、見知った人物がいた。
「ブレンダさん」
「ミラン様……!」
今朝ぶりですね、微笑むとミランもそうね、と頷いた。
「ブレンダさん、おめでとう。あなたの努力が実って嬉しいわ」
「ありがとうございます!」
掲示板には、本当に一位ブレンダと書いてある。私だけ家名がないから、かなり目立つ。でも、嬉しい。
ミランも順位を確認するために来ていたらしく、一緒に女子寮まで帰りながら、今日あったいいことを話した。
「そう。お友達が増えたのね。いいことだわ」
「はい」
「……でも」
急に立ち止まったミランに首をかしげる。どうしたんだろう。
「私は、あなたの親友よね」
ミランの言わんとしていることがわかったので、笑顔で頷く。
「……そうですよ、大親友です!」
ミランは、そう、ならいいのよ、と頬を赤く染めて横を向いた。
そんなミランがかわいくて思わず抱きつこうとして──ふと、疑問に思った。
「そういえば、ミラン様はなぜ、私と友人になりたいと思ってくださったのですか?」




