欲しいもの
「ジル、ついに本気を出したな! 君が一位だ」
そう言って図書室に入ってきたのは、クライヴだった。クライヴは、少し悔しそうな顔をしている。
「ボクはいつでも本気だよ」
ジルバルトはクライヴの言葉に肩をすくめ、笑った。悪戯に成功した子供のような柔らかい笑みで。
「いつも目立ちすぎないように、少し手を抜いていただろう?」
クライヴがそう指摘すると、ジルバルトはあっさりと頷いた。
「手を抜くにしても、本気で抜かなきゃ」
確かに。学年一位を取らずに、学年二位の成績を維持するのは逆に難しい気もする。でも、だったら、なんで、ジルバルトは今までの苦労を捨てて、学年一位を取ったんだろう。
聞いちゃ、いけないこと、かな。
でも、知りたい。
「ジルバルト様――」
どうして、今回は手を抜かなかったのですか?
私がそう尋ねると、ジルバルトは形のいい唇に指をあてた。
「秘密……といいたいところだけれど、可愛い後輩の疑問には答えなきゃね。欲しいものが出来たから。それにふさわしいボクになりたくて」
「欲しいもの、なんですか?」
「それは、ブレンダでも内緒。そんなに難しくないからさ、また、当ててみてよ」
丁度そこで、午前の授業の予鈴が鳴った。急いで机に散らばっていた勉強道具を片付け、教室に向かった。
◇◇ ◇
午前の授業を終えた後。
「……?」
私は、なぜかたくさんの女子生徒に囲まれていた。
「あの……?」
私は、貴族から平民になったので遠巻きにされることが多い。それなのに、今日はどうしたんだろう。
はっ! もしかして、この髪型校則違反だったのかしら。
でも、生徒会長であるクライヴには何も言われなかったし……。
「あのね、ブレンダさん」
「はい」
私は、彼女たちを一人一人見つめた。彼女たちの頬は紅潮しており、やっぱり、怒って――。
「わたくしたち、とても感動しているの!」
「……え?」
思わぬ言葉に、ぱちり、と瞬きをする。
「感動、ですか……?」
「ええ、そう!!」
私が首をかしげると、ずい、と彼女たちは更に距離を詰めた。
「だって、貴女は――元々公爵家の令嬢だったでしょう」
それはそうだ。今は、ただのブレンダだけれど、以前は、ブレンダ・スコットという名前を持っていた。
「それなのに、平民になって。でも、挫けることなく、この学園に通って。そして、果てには中間テストで学年一位を取ったんだもの」
すごいわ、と口々に言われる。
「! ……っ、ありがとう、ございます」
そんな風に、褒められることに慣れていなくて、思わず頬にかあっと血がのぼるのを感じる。嬉しい。誰かに努力を認められることって、こんなに嬉しいことだったんだ。
「それで……、こんなことを今更いうのも、失礼かもしれないけれど……。わたくしたちと友人になって下さらない?」




