屋上
教室でも多数の好奇の視線にさらされることにはなった。けれど、特に気にしないことにして、ホームルームが始まる前に予習をすることができた。
そのおかげで初めての学園での授業は、特に躓くことはなかった。
さて。
お昼休みになった。
この学園には食堂がある。なので、そこで食べるのもいいのだけれど。
今日はせっかくのいい天気だ。
購買部もあったはずだから、そこで、軽食でも買って、屋上で食べよう。
何種類かパンを買って、屋上へ向かう。
屋上では思った通り、気持ちのいい風が吹き抜けていた。それに、みんな食堂に行っているのか、誰もいない。
私は柔らかな日差しがあたる特等席で、パンを食べた。
「……おいしい!」
ただ、これだけだと栄養が片寄るのが難点だ。
そんなことを考えていると足音がした。
こんなに気持ちのいい場所だ。やっぱり、独り占めはできないか。
そう思いながら足音のしたほうへ振り向くと、アイスグレーの瞳と目があった。
彼は私の姿をみて、ぱちぱちと瞬きしたあと、破顔した。
「髪、切ったんだね」
「……はい、ルドフィル様」
ルドフィル・マーカス。私の一つ歳上の従兄で、マーカス侯爵家の次男だ。
「とっても似合ってる」
掛け値なしのその言葉に私の口角も緩むのがわかった。
「ありがとうございます」
ルドフィルは、私の隣に腰を下ろすとにこにこと笑った。
「昨日の生徒会の顔合わせのときも思ったけど」
ルドフィルも生徒会の役員だ。
「ブレンダの笑みはやっぱり、可愛いね」
それを聞いて、変わらないな、と思う。
ルドフィルは、私が感情を表現することを禁止されてから、ずっと私に構いたがった。
私をどうにかして、笑わせようといつも必死になってくれていた。
そして、いつも、言うのだ。
ブレンダの笑顔は、とっても可愛いよって。
その笑みを見たことはずいぶん前のはずなのに。何年たってもルドフィルは、そういい続けてくれた。
「ありがとうございます。……ご心配ばかりをおかけしてしまいましたね」
「ううん。君が幸せならそれでいいんだ。……自由に、なれたんだね」
目を細めて、ルドフィルは笑う。
「はい」
とっても、自由だ。今なら、空でも飛べるかもしれない。
……そういえば。
「ルドフィル様はどうして、屋上に?」
「……この時期はね、食堂で人気メニューがあるから屋上には誰も来ないんだ」
それで、こんなにいい風が吹いてるのに、誰もいなかったんだ。
「人もいないし、日向ぼっこに最適だから、気に入ってる」
なるほど。
でも、せっかくの機会を邪魔してしまった。
そういうと、ぶんぶんと、ルドフィルは首を振った。
「邪魔だなんて思うはずないよ。だから、もう、屋上にくるのはやめようなんて、思わないでね」
思っていたことを先回りして言われて驚く。
「わかるよ。従兄だもの」
その言い方があまりにも得意気だったので、笑ってしまう。
昼休みは、その後もルドフィルと穏やかな時間を過ごした。