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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
一章

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祈り

 柔らかな呼吸音が聞こえる。どうやら、彼女は完全に眠ったようだった。その表情は、あどけない。


『氷姫』


 ぴくりとも表情を動かさないせいで、そう影で呼ばれていた今の彼女に、その面影はなかった。


 笑って、戸惑って、拗ねて……まだ、泣いたところはみたことがないけれど。

 ころころと表情が変わる様は見ていて飽きない。


「……ん」

 ブレンダが寝返りを打った。そのせいで、彼女の綺麗な水色の髪が、顔にかかる。ボクはそれをそっと、彼女の耳にかけた。ボクたちが話すようになってから少し伸びたその髪は、この国では少し珍しい色だった。


 ──彼女を好ましく、思う。

 もっというと、愛しく、思う。


「……なんでかな」


 彼女の心が実は氷ではないと知って、もっと彼女のことを知りたくなった。意外と食い意地が張っていて、ダンスが得意で、笑うとまるで太陽のような目映さを放つ、彼女を。


 初めて、好きになった女の子。


 みんな、ボクを嫌った。

 最初はこの顔で寄ってきても、ボクの目のことを知ると、みんな避けた。


 それなのに。

 彼女は、自分から遠ざけないでくれと言ってきた。

 それが、どれだけ嬉しくて、どれだけボクにとって得難い言葉だったのか、きっと彼女は知らない。


「……ボクに、恋をしてくれたらいいのに」


 だけど、彼女は恋をして変わってしまうことが怖いという。


「ねぇ、ブレンダ──」


 そっと、息を吐き出す。

 彼女が目を覚ます気配はない。相変わらず穏やかな呼吸音が聞こえる。

 だからそれを良いことにボクは囁いた。


「          」


 どうか、この祈りが彼女に届きますように。


◇ ◇ ◇


「……んん」

「おきた? おはよ、ブレンダ」 


 ジルバルトが優しく微笑んだ。

 ぱちぱちと瞬きをする。なんだかとても──良い夢をみた気がした。どんな夢かは忘れてしまったけれど。


「じる、ばると様?」

 声が少しかすれている。そのことに気づいたのかジルバルトはお水を持ってきてくれた。

「うん、おはよ」


 お礼を言ってお水を受け取り、飲み干す。喉が潤った。

「おはようございま──えっ、夕方!?」


 ジルバルトに挨拶をしようとして、日が傾きだしているのに気づく。どうやら、私はあれからずっと眠ってしまっていたようだった。

「もしかして、ジルバルト様、ずっとそばに……」

「そんな顔しないで。ボクが勝手にしたことだから」

 でも、申し訳なさすぎる。眉を下げた私の頬をジルバルトは包んだ。

「大丈夫だよ。ボクが普段勉強してるのは、いつか大事な人ができたときに、その人を不幸にしないためだから」

 そうなんだ。あれ、でも。それが、大丈夫に繋がるってことは。

「だいじな、ひと?」

「そうだよ。ブレンダは、大事な──」


 そこで、ジルバルトは言葉を切った。

 一瞬色んな感情がごちゃまぜになったような顔をして、それから穏やかに笑った。

「……後輩、だからね。だからブレンダの方が優先」

「……ありがとうございます」

 まだ、申し訳なさはあるけれど、それでも。ジルバルトの言葉が嬉しかった。


 ……と、そこで。

「!」


 私のお腹が鳴ってしまった。

 ジルバルトが、いたずらっぽく微笑む。

「カフェにいこうか。ボクもお腹空いたし。生徒会の仕事はクライヴに休むっていっておいたよ」

「ありがとうございます」


 良かった。今はアレクシス殿下を避けたかったので、生徒会をどうしようかと思っていたのだ。……それでも、問題が先延ばしになっただけだけれど。


「カフェも、今は期間限定のメニューがあるんじゃなかったかな」

「! ほんとですか?」


 いったいどんなメニューだろう。思わずごくりと喉をならした私にジルバルトはふは、と笑った。

「うん。本当だよ」


 そういって、私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「! だから私は犬じゃ──」


 抗議をしようとしたのに、ジルバルトの目があまりに優しかったから、やめる。


 ジルバルトは一通り撫でて満足したのか、胸ポケットから櫛を取り出すと、私の髪をとき、クリップで止めてくれた。

「よし、じゃあ行こうか」

「はい」


 ジルバルトにエスコートされてカフェに向かう。

 ──カフェではとても穏やかな時間を過ごした。

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― 新着の感想 ―
ん? ジルバルト様、スパダリかな?w
[一言] ジルベルトさんが素敵すぎて辛い
[良い点] ジルバルトがめっちゃ優しい!! 二人だけの穏やかで暖かな時間の流れにほっと癒されます。 今回もとっても素敵でした(*´ー`*) [気になる点] アレクシス殿下……穏やかな時の後には一波乱あ…
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