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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
一章

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望み

 走って走って走って。気づけば、寮の自室だった。


「はぁっ、はあっ……」

 いつもの部屋の香りに安堵して、膝から崩れ落ちる。

「どうして……」

 どうして、アレクシス殿下は私に恋なんか。

 友人になって欲しいと言われたときは、ちゃんと向き合えていなかったこの人ともう一度向き合いたいと思った。

 でも、そのやり方を私は間違えてしまったようだった。


 正しく距離をとっていれば、アレクシス殿下も、恋に浮かされることもなかったんじゃないか。恋のために全てを捨てるのは間違ってる──間違っている、はずだ。少なくとも、捨てられたものにとっては。


 そして、アレクシス殿下が捨てようとしているのは、大事にすべきものたちだった。

 アレクシス殿下自身も、そのことをずっと教育されて育ったはず。

「それなのに……」


 アレクシス殿下の言葉が蘇る。


──私が隣にいてほしいのは、ブレンダなんだ。どうしても、君がいい。


 たとえばそれが、私たちが婚約者同士だった頃の言葉だったなら喜んで、受け入れられた。けれど、今の私たちは違う。


「私は……、わたし、は」

 平穏無事にこの学園生活を乗りきれれば、それでいい。それ以外は、何も望まない。だから。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。寝不足でぼんやりする頭を、冷たい水で濡らしたタオルで覚醒させる。

「……よし」

 まだ顔色が悪いのを誤魔化すように、少しだけ色づいたリップをつける。そして、ジルバルトからもらった花柄のクリップをつけて微笑んだ。

「大丈夫」


 何が大丈夫なのか、さっぱりわからないけれど。自分を励ますように声にだすと少し気持ちが軽くなった。


 支度を整えて、図書室に向かう。

 図書室にいくとやっぱりジルバルトがいた。

 ジルバルトは私に気づくと微笑んだ。

 小声で挨拶して、隣に座る。

 参考書を開き、目の前の問題に集中する。

 勉強は好きだ。没頭すれば、私の世界から雑音は消える。


 そう思った、時だった。……雨の音が聞こえた。

『──××××!!』

 泣き叫ぶ声がそれに重なる。

 叫び声は、雨音と共に大きくなる。


 傘の上で雨粒が激しく跳ねる。いや、傘の上だけじゃない。地面にも、そのひとにも雨は激しく降り注いでいた。


 それでも、傘ひとつささずに、そのひとは、棺にすがり付く。

『……私も、すぐにそちらに──』


 とても悲しい。だけれど、誰一人他の人の声も届かず、すがり付くその様子は異常だった。


「……ダ。ブレンダ!」


 名前を呼ばれて、体を揺さぶられ、はっとする。瞬きをすると、意識がちゃんと戻ってきた。

「ジル、バルト様……」


 心配そうなジルバルトの名前を呼ぶと、ジルバルトは苦しそうな顔をした。

「ごめん。また、悲しい記憶をみたんでしょう? ブレンダ、予鈴がなったのに固まって全然動かなかったから。さっきまで晴れてたから大丈夫だと思ってたんだけど……軽率だった」


 ジルバルトに言われて、窓の外をみると、雨が降っていた。

「ジルバルト様のせいじゃありません」


 悲しい記憶。記憶があるから恋が怖い。私も同じことをしそうで。でも、それはちっともジルバルトのせいじゃなかった。


「でも……」

 なおも悲しげな表情をしたジルバルトを安心させるように微笑む。けれど、ジルバルトの表情は晴れない。

「……ブレンダ、やっぱり──」

 その続きを聞きたくなくて、言葉を遮る。


「ジルバルト様。このクリップどうですか?」

「え、うん、似合ってる」

 唐突に変わった話にジルバルトは、ぱちぱちと瞬きをした。

「良かった。大事にしますね」

 声をかけてくださってありがとうございます。


 そういって、広げた勉強道具を片づけて席を立とうとした、その手を捕まれた。

「そうじゃなくて、ブレンダ。僕たちは……」

「いや、で……」


 きっぱりと嫌だとそう言おうとして、身体が傾く。

 どうやら寝不足だったのが原因らしい。

「ブレンダ!」

 ジルバルトが支えてくれた。

「……とりあえず、保健室にいこう」


 

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