恋
恋を、している。
たとえばそれが愛している、だったなら。親愛のそれだと受け取れた。
でも、恋は誤解しようもない。
私の知る恋の意味はひとつだけ。
「困らせてごめん。でも、僕は……、困らせるとわかってても、ブレンダのことが好きなんだ。君のことが好きでいる僕をやめられない」
とっさにルドフィルの名前を呼ぼうとして、声にならなかった。私の口からでたのは、ひゅうという音だけ。
「ずっと、この想いは口にしないべきだとわかってた。いつか君がアレクシス殿下と結婚して、幸せになるのなら、それでいいと思ってた。でも……」
状況が、変わった。
ルドフィルはぽつりと呟いた。
私がアレクシス殿下の婚約者ではなくなったことだろう。
「それでも、最初は黙っていようと思った。君は、今の方がずっと楽しそうだったから。僕と婚約すれば君はまた貴族になる。でも、アレクシス殿下の執着を遮るには、新たな婚約者が必要なんじゃないかとも思った。だから、婚約を申し込んだ──なんて、ごめん。本当は全部言い訳だ」
ルドフィルが俯いた顔をあげて私を見た。
アイスグレーの瞳から目をそらせない。
「ブレンダ、君のことが好きなんだ。君に恋をしてる」
◇ ◇ ◇
それからどうやって教室に戻ったのか、あまり覚えていない。
気付けば午後の授業が終わっていて、私は女子寮の自室にいた。
「はっ……!」
最近の日課である、放課後も図書室で勉強をするのを忘れるなんて──、と思ったけれど。こんな状態で、勉強が手につくはずもない。
ルドフィルは言った。私に恋をしていると。
ルドフィルには誰か特別に想う人がいるのではないかと思っていたけれど、それが私だったなんて、思いもよらなかった。
恋。私にとっての恋。それは──、その想いのためならば、全てを──ときに自分の命や家族でさえも擲つことができるもの。
ルドフィルが、私に恋を?
本当に?
でも、ルドフィルは私に嘘をつかない。隠すことはあっても騙すことはしない。
それに、ルドフィルの瞳は本気だった。
本気で私に……好意を抱いてくれている。
だったら私も返事がどうにせよ、真剣に応えなければならない。
……でも。そもそも。
「私に……恋は無理なのに」
そして、それを知らないルドフィルではないはずだ。
ううん、でも。変わりたいと、乗り越えたいと思ったばかりだ。いつまでも踞ってばかりいるのはやめよう。無理だと決めつけるんじゃなくて、私が、ルドフィルのことをどう思っているのか考えるんだ。
──私にとって、ルドフィルはどういう存在だろう。




